第3種 電力 R2年度

電験三種 令和2年度 電力 問3『汽力発電所の保護装置に関する問題』

問題

次のa)〜e)の文章は,汽力発電所の保護装置に関する記述である。
これらの文章の内容について,適切なものと不適切なものの組合せとして,正しいものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
a)蒸気タービンの回転速度が定格を超える一定値以上に上昇すると,自動的に蒸気止弁を閉じて,タービンを停止する非常調速機が設置されている。
b)ボイラ水の循環が円滑に行われていないとき,水管の焼損事故を防止するため,燃料を遮断してバーナを消火させる燃料遮断装置が設置されている。
c)負荷の緊急遮断等によって,ボイラ内の蒸気圧力が一定限度を超えたとき,蒸気を放出させて機器の破損を防ぐため,蒸気加減弁が設置されている。
d)蒸気タービンの軸受油圧が異常低下したとき,タービンを停止させるトリップ装置が設置されている。
e)発電機固定子巻線の内部短絡を検出・保護するために,比率差動継電器が設置されている。

解説

a)

非常調速機とは,タービンの回転数が定格速度を超える一定の値(例えば定格の110%の回転数)を超えたときにタービンを停止する装置のことです。したがってこの記述は正しいです。なお非常調速機は,タービンの回転速度を一定に保つための調速機とは別に設置されています。

b)

燃料遮断装置とは,燃料、ボイラ水の循環、空気の系統の異常などにより、ボイラの燃焼不安定、火炉圧力の異常,水管の焼損の危険が発生し,ボイラの運転が危険になったときに,ただちに燃料元弁を遮断してバーナを消火させるための装置のことです。したがってこの記述は正しいです。
なお,燃料遮断装置のことをMFT(Master Fuel Trip)ということもあり,この仕組みのことをMFTインターロック(MFT保護系)と呼んでいるようです。

c)

蒸気加減弁は,タービンの入口において蒸気の流量を調整するための弁であり,タービンの出力を制御するために用いられる弁のことです。ボイラ内の蒸気圧力が一定限度を超えて,機器の破損を防ぐために蒸気をボイラの外部に放出するための弁は安全弁と呼ばれています。したがってこの記述は誤りです。

d)

タービンの保安装置として,蒸気タービンの軸受油圧が異常低下したときに動作してタービンを停止させために,軸受油圧低下トリップ装置が設けられています。したがってこの記述は正しいです。

e)

比率差動継電器とは,下図の概念図のように保護しようとする機器の両端にCT(変流器)を設置し,その機器に出入りする電流の差を監視する保護継電器です。機器の内部に短絡事故が発生すると,動作回路に流れる電流値が大きくなるようにそれぞれのCTを結線しています。

上図で青線は機器に事故が発生していない通常時の電流の流れる方向を示しており,赤線は機器の内部で事故が発生しているときの電流の流れる方向を示しています。通常時はCTの二次側にはそれぞれ,i_{1n}i_{2n}の電流が流れ,機器の内部事故時にはCTの二次側にはそれぞれ,i_{1f}i_{2f}の電流が流れるとしています。

通常時,動作回路にはi_{1n}-i_{2n}の電流が流れますが,動作回路に流れる電流はそれぞれ方向が逆で大きさが同じであるため0になります。

機器内部に事故が発生すると,動作回路にはi_{1n}+i_{2n}の電流が流れ,この値が0ではなくなります。このように,動作回路にある一定以上の電流が流れたときに保護継電器が動作するようにしておくことで,機器の内部事故に対する保護が可能になります。

このように比率差動継電器は,機器の内部短絡事故を検出するために設置されますので,この記述は正しいです。

上記のとおりc)の記述のみ不適切ですので,答えは(1)となります。

 

解答

(1)

 

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