問題
定格容量20MV・A,一次側定格電圧77kV,二時側定格電圧6.6kV,百分率インピーダンス10.6%(基準容量20MV・A)の三相変圧器がある。三相変圧器の一次側は77kVの電源に接続され,二次側は負荷のみが接続されている。三相変圧器の一次側から見た電源の百分率インピーダンスは,1.1%(基準容量20MV・A)である。抵抗分及びその他の定格は無視する。三相変圧器の二次側に設置する遮断器の定格遮断電流の値[kA]として,最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1)1.5 (2)2.6 (3)6.0 (4)20.0 (5)260.0
解説
遮断器の定格遮断電流とは,その遮断器で遮断することが可能な最大の電流のことです。厳密な定義はJECなどの規格で定められています。
遮断器の定格遮断電流を決めるためには、遮断器に流れる最大の電流の大きさを把握しておく必要があります。遮断器に最も大きな電流が流れるのは,遮断器のすぐ近くで三相短絡が発生した場合です。
問題では機器のインピーダンス値が%インピーダンスで与えられていますので,%インピーダンスを使って三相短絡時の電流を求めていきます。ただ,%値をそのまま使うと計算の途中で100で割ったり掛けたりする必要があるため,%値は最初にPU値(ピーユー値。単なる倍率のことです。)にしてから計算します。PU値への換算は%値を100で割るだけなので,
変圧器のインピーダンスのPU値:0.106
電源側のインピーダンスのPU値:0.011
となります。変圧器の%インピーダンス,電源側の%インピーダンス共に基準容量が同じであるため,計算は上記の値がそのまま使えます。
三相短絡電流を求めるための回路を図にすると以下のとおりになります。
変圧器のインピーダンス,電源側のインピーダンスともに抵抗分は無視しても良いとあるため,このインピーダンスの値はリアクタンスと考えてよく,上記の回路図ではインピーダンス値に虚数を表すjをつけています。短絡電流を求める際には,大きさだけを気にすればよいため,以下の計算ではjを省いて計算していきます。なお,問題文で抵抗分の値が指定されている場合は位相を考慮する必要があるため,その場合はjを省くことはできません。
短絡電流はオームの法則を使って,「電圧÷インピーダンス」で求めることができます。問題の回路の合計のインピーダンス値は,電源側のインピーダンスと変圧器のインピーダンスの和となります。電圧の大きさは定格電圧であるため,PU値で表すと1(%値では100%)となるため,短絡電流I_sのPU値は以下のとおりとなります。
I_s=\dfrac{1}{0.106+0.011}=8.547 [pu]
短絡電流がPU値で8.547になるというのは,短絡電流の大きさが定格電流の大きさの8.547倍であることを意味しています。定格電流の大きさは,基準容量値と遮断器が設置されている回路(6.6kV側の回路)の基準電圧値から求めることができます。
基準容量をP_B[VA],基準電圧(線間電圧)をV_B[V],基準電流をI_B[A]としたとき,
P_B=\sqrt{3} \times V_B \times I_B
という関係があるため,基準電流の大きさI_Bは以下のとおり求められます。
I_B=\dfrac{P_B}{\sqrt{3} \times V_B}=\dfrac{20 \times 10^6}{\sqrt{3} \times 6.6 \times 10^3}
短絡電流I_sのPU値は8.547でしたので,基準電流値を用いて実際の短絡電流値を求めると,
I_s=\dfrac{20 \times 10^6}{\sqrt{3} \times 6.6 \times 10^3} \times 8.547 = 14,953.3 [A] \fallingdotseq 15 [kA]
となります。
遮断器を流れる最大の電流の大きさが約15[kA]であることが分かりましたので,遮断器の定格遮断電流値はこれよりも大きな値で,かつ値が近いものを選定すると経済的でもあるため,問題の選択肢の中では20[kA]が最適になります。260[kA]でも問題なく短絡電流を遮断できますが,過剰な設備になるかと思います。
解答
(4)