問題
次の文章は,架空送電線路に関する記述である。
架空送電線路の線路定数には,抵抗,作用インダクタンス,作用静電容量,\fbox{(ア)}コンダクタンスがある。線路定数のうち,抵抗値は,表皮効果により\fbox{(イ)}のほうが増加する。また,作用インダクタンスと作用静電容量は,線間距離Dと電線半径rの比D/rに影響される。D/rの値が大きくなれば,作用静電容量の値は\fbox{(ウ)}なる。
作用静電容量を無視できない中距離送電線路では,作用静電容量によるアドミタンスを1か所又は2か所にまとめる\fbox{(エ)}定数回路が近似計算に用いられる。このとき,送電端側と受電端側の2か所にアドミタンスをまとめる回路を\fbox{(オ)}形回路という。
上記の記述中の空白箇所(ア)〜(オ)に当てはまる組合せとして,正しいものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
解説
(ア)
コンダクタンスとは,抵抗の逆数に等しい値で,電流の流れやすさを表す量です。送電線では,架空線を支持するがいしの表面に電流がわずかに流れる場合や,コロナ放電により電流が流れる場合がありますが,これらを表すためにコンダクタンスが用いられます。このような電流は送電線から漏れているような印象があるため,漏れ電流とも言われ,その流れやすさを表すコンダクタンスは漏れコンダクタンスと呼ばれています。
(イ)
表皮効果とは,導体に交流の電流が流れるときに,電流の密度が導体の表面ほど高くなり,中心に向かうほど低くなる,すなわち交流電流が導体の表面に近いところを流れる現象のことです。表皮効果は交流に特有の現象であり,導体に交流電流を流した場合,同じ導体に直流電流を流した場合に比べて,電流が流れる範囲が小さくなるため,導体の抵抗が大きくなります。
(ウ)
架空送電線には,下図の(a)に示すように,各相の線間の静電容量,各相と大地との間の静電容量があります。作用静電容量とは,送電線のある1相の中性点に対する静電容量のことです。
下図の通り,各相間の静電容量が同じ大きさのC_mである場合,中性点に対する静電容量はY-Δ変換を用いて求めると3C_mとなります。作用静電容量は中性点に対する静電容量であるため,作用静電容量の大きさをC_wとすると,その値は大地に対する静電容量C_sと3C_mの和となります。
C_w = C_s + 3C_m
作用静電容量C_wの値は,結果だけ示すと以下のとおりとなります。
C_w = \dfrac{0.02413}{\log_{10} \dfrac{D}{r}} [μF/km]
上式を見ると,作用静電容量の値は大地から電線までの距離には関係なく,電線間の等価距離D(各相の電線間距離の積の3乗根。電線間距離の平均値のようなイメージ。),電線の半径rによってのみ決まるようになっています。この理由は,この式を求める途中において,大地から電線までの距離が電線の太さに比べてはるかに大きいという条件を使って,計算途中の値の一部に近似値を用いており,結果的に大地からの距離の値が式からは無くなったためです。より正確に値を求める場合は,大地から電線までの距離も考慮する必要があり,その場合は当然ながら,上記の式とは異なる式で値を求めることになります。
上記の式のとおり,電線間の等価距離Dと半径rの比D/rの値が大きくなると,作用静電容量の大きさは小さくなることが分かります。
なお直感的には,平行板コンデンサの静電容量は極間の距離が遠い程,値が小さくなるということと同じように考えて,架空送電線の電線間の距離が遠くなるとその静電容量は小さくなると考えてもよいかと思います。
作用インダクタンスについて
架空送電線のインダクタンスには,各相の自己インダクタンス,隣接する相との相互インダクタンスがあります。また地絡電流などが大地を流れる場合は,大地を導体とみなし,大地の自己インダクタンス,大地と各相間の相互インダクタンスも考慮する必要があります。すなわち、電流が流れる経路を電線のみとするか、大地に電流が流れる場合も考えるかによって、インダクタンスの値が異なってきます。
作用インダクタンスとは、電流が電線にのみ流れ,大地に流れない状態でのインダクタンスのことを言います。電流が電線にのみ流れる場合のインダクタンスの値は,電線の太さと電線間の距離のみで決まります。電線間の等価距離をD,電線の半径をrとしたとき,その値を結果だけ示すと以下のとおりとなります。
0.4605 \log_{10} \dfrac{D}{r} + 0.05 [mH/km]
上式から分かるとおり,電線間の等価距離Dと半径rの比D/rの値が大きくなると,作用インダクタンスの値も大きくなります。
(エ)
送電線の任意の点における電圧,電流,有効電力,無効電力などを計算で求める場合,線路の抵抗,インダクタンス,静電容量,漏れコンダクタンスが一様に分布しているとして計算すると,正確に値を求めることができます。このときに用いられる回路のことを,分布定数回路といいます。
しかし,一般には線路の抵抗,インダクタンス,静電容量,漏れコンダクタンスを一カ所,あるいは数カ所に集中させた回路を用いて計算してもよい場合があります。このときに用いられる回路のことを集中定数回路と呼んでいます。
(オ)
送電線を集中定数回路で模擬する場合,静電容量が線路の両端に半分ずつ分けて集中しているとして考える場合と,線路の中央に集中しているとして考える場合があります。前者の回路のことをπ形回路(下図の(a)),後者の回路のことをT形回路(下図の(b))といいます。回路の形を考えると,名前のとおりの回路ですね。
解答
(1)