第3種 電力 R2年度

電験三種 令和2年度 電力 問16『送電線の電流に関する計算問題』

問題

こう長25kmの三相3線式2回線送電線路に,受電端電圧が22kV,遅れ力率0.9の三相平衡負荷5 000kWが接続されている。次の(a)及び(b)の問に答えよ。ただし,送電線は2回線運用しており,与えられた条件以外は無視するものとする。

(a)送電線1線当たりの電流の値[A]として,最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。ただし,送電線は単導体方式とする。

(1)42.1 (2)65.6 (3)72.9 (4)126.3 (5)145.8

(b)送電損失を三相平衡負荷に対し5%以下にするための送電線1線の最小段面積の値[mm2]として,最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。ただし,使用電線は,断面積1mm2,長さ1m当たりの抵抗を\dfrac{1}{35}Ωとする。

(1)31 (2)46 (3)74 (4)92 (5)183

 

解説

(a)

送電線はそれに接続される負荷に電力を供給する(電流を流す)ためのものであるため,送電線に接続された負荷に流れる電流の大きさから,送電線に流れる電流を求めることができます。

問題では2回線の送電線で負荷に電力を供給するため,送電線1回線あたりに流れる電流は,求めた負荷電流の半分になります。(問題文には明確に記載されていませんが,1回線あたりの送電線のインピーダンスは等しいと考えてよく,インピーダンスが等しいので流れる電流は半分ずつになります。)

求める電流値は1線あたりの電流値ですが,三相交流の電力を求める式において,電流は線電流の値を使うため,得られる値がそのまま1線あたりの電流値となります。

まずは負荷に供給する電力の大きさから,負荷の電流値を求めます。

受電端における負荷の有効電力をP[W],電圧(線間電圧)をV[V],電流(線電流)をI[A],力率をcos \thetaとすると,

P = \sqrt{3} V I cos \theta

であるため,この式に問題で与えられた数値を代入して,受電端における電流値を求めると,

I = \dfrac{P}{\sqrt{3} V cos \theta} = \dfrac{5000}{\sqrt{3} \times 22 \times 0.9} \fallingdotseq 145.80 [A]

となります。送電線1回線あたりの電流値はこの半分であるため,

\dfrac{145.80}{2} = 72.9 [A]

となります。

最初に述べたとおり,三相平衡交流の計算では,Pは三相分の電力,Vは線間の電圧,Iは線電流(1線の電流値)であるため,得られた結果がそのまま問題の答えとなります。

 

(b)

送電損失は送電線の抵抗に電流が流れることにより生じる抵抗損(熱として消費される)が主なものであるため,送電線の抵抗値を小さくすることで,送電損失を小さくすることができます。

送電線の電線の抵抗値は,電線の長さに比例し,断面積(太さ)に反比例するため,抵抗値を小さくするには,電線の長さ短くするか,断面積を大きくするかの方法があります。問題は断面積を求める問題であるため,今回は長さは変えずに断面積を大きくする方法で抵抗値を小さくし,送電線の損失が負荷の大きさの5%以下となるようにします。

したがってこの問題を解くには,まずは条件となる送電線の損失(負荷の大きさの5%以下)の大きさを求める必要があります。その大きさが送電線の抵抗で消費される電力ですので,次にこの大きさを使って送電線の抵抗値を求めます。最後に得られた抵抗値から,その抵抗値となる送電線の断面積を求める,という手順で解いていきます。

 

step
1
条件となる送電損失を求める

送電損失を三相平衡負荷に対し5%以下にしたいとあるため,その大きさを求めると,

P_L = 5000 \times 10^3 \times 0.05 = 250 [kW]

となります。
送電線の電線の抵抗で消費される電力,熱エネルギーがこの値よりも小さくなるように,電線の抵抗値を求める必要があります。

 

step
2
得られた送電損失以下となる送電線の抵抗を求める

次に送電線に流れる電流,抵抗値を使って,送電線の損失を式で表してみます。
送電線の損失をP_L[W],送電線に流れる電流(線電流)をI_L[A],送電線の1線の抵抗値をR[Ω]とします。問題の送電線は2回線であるため,2回線全体の損失は,1回線の2倍,電線の本数でいうと6本の電線の損失となり,これを式で表すと,

P_L = 6 I_L^2 R

となります。

この式で得られる損失の大きさが,先ほど求めた送電線の損失の大きさ以下である必要があるので,

6 I_L^2 R \leqq 250 \times 10^3

となります。

送電線に流れる電流の大きさI_Lは問題(a)ですでに求めており,その大きさは1線あたり72.9[A]でした。この値を I に代入してRを求めると,

R \leqq \dfrac{250 \times 10^3 }{ 6 I_L^2} = \dfrac{250 \times 10^3 }{6 \times 72.9^2} \fallingdotseq 7.84 [Ω]

となります。

 

step
3
得られた送電線の抵抗値以下となる電線の太さを求める

抵抗の大きさが求まりましたので,この抵抗値以下となる電線を太さを求めていきます。電線の抵抗は電線の長さに比例し,電線の断面積に反比例します。問題では,断面積1mm2,長さ1m当たりの抵抗が\dfrac{1}{35} [Ω]とあるので,電線の長さを l [m],断面積を S [mm2]とすると,Rは以下のとおり表すことができます。

R = \dfrac{1}{35} \dfrac{l}{S} \leqq 7.84 [Ω]

電線の長さ l は25km(25,000m)と与えられているので,これを代入して S を求めると,

S \geqq \dfrac{1}{35} \dfrac{25,000}{7.84}
S \geqq 91.1

上式より,電線の断面積は91.1mm2以上であればよいので,問題の選択肢からこの条件を満たす最小の値のものを選ぶと,92mm2となります。

 

解答

(a)(3)
(b)(4)

 

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