問題
変圧器の構造に関する記述として,誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1)変圧器の巻線には軟銅線が用いられる。巻線の方法としては,鉄心に絶縁を施し,その上に巻線を直接巻きつける方法,円筒巻線や板状巻線としてこれを鉄心にはめ込む方法などがある。
(2)変圧器の鉄心には,飽和磁束密度と比透磁率が大きい電磁鋼板が用いられる。この鋼板は,渦電流損を低減するためケイ素が数%含有され,されにヒステリシス損を低減するために表面が絶縁被膜で覆われている。
(3)変圧器の冷却方式には用いる冷媒によって,絶縁油を使用する油入式と空気を使用する乾式,さらにガス冷却式などがある。
(4)変圧器油は,変圧器本体を浸し,巻線の絶縁耐力を高めるとともに,冷却によって本体の温度上昇を防ぐために用いられる。また,化学的に安定で,引火点が高く,流動性に富み比熱が大きくて冷却効果が大きいなどの性質を備えることが必要となる。
(5)大型の油入変圧器では,負荷変動に伴い油の温度が変動し,油が膨張・収縮を繰り返すため,外気が変圧器内部に出入りを繰り返す。これを変圧器の呼吸作用といい,油の劣化の原因となる。この劣化を防止するため,本体の外にコンサベータやブリーザを設ける。
解説
(1)
変圧器の巻線は一般的に軟銅線が用いられています。
巻線の方法は,変圧器の鉄心側を絶縁してそれに直接導体を巻く方法の他,巻線を絶縁した状態で鉄心にはめ込む方法があります。後者の方法として,絶縁された筒の上に巻線を巻いて,それを鉄心にはめ込む円筒巻線,導体を半径の方向に巻いたものを板状の絶縁体で囲み,板状巻線として鉄心にはめ込む方法などがあります。
この記述は正しいです。
(2)
「変圧器の鉄心には,飽和磁束密度と比透磁率が大きい電磁鋼板が用いられる。」という記述については,その通りです。
変圧器の鉄心には一次コイルと二次コイルが巻き付けられており,鉄心に生じる磁束を介して,それぞれのコイルの巻き数比に応じて電圧を変換しています。鉄心は,一次コイルに流れる電流により生じる磁束を二次側のコイルへ通す磁路(磁束の通り道)であるため,鉄心には磁束が通りやすい材質が採用されています。
磁束の通りやすさを表すものとして透磁率があります。比透磁率とは,真空の透磁率を基準にして相対的にある物質の透磁率を表したものです。したがって比透磁率が大きいほど,真空のときよりも大きな磁束を通すことができる物質であることになるため,変圧器の鉄心には比透磁率の大きな材料が用いられています。
鉄心の大きさは有限であるため,コイルに流す電流を大きくしていったときに,鉄心内部に生じる磁束の大きさがある限界に達します。鉄心に生じる磁束は,鉄心内部の磁束の単位面積あたりの密度で表し,これを磁束密度といいますが,この磁束密度が限界に達したときの値を飽和磁束密度と言います。
鉄心内部の磁束密度が飽和磁束密度に達すると,それ以上コイルに電流を流しても磁束の変化がないため,変圧器としての機能を果たすことが出来ません。したがって,変圧器の鉄心には飽和磁束密度の大きな材料が用いられています。
電磁鋼板とは,比透磁率が大きく,飽和磁束密度が大きくなるよう工夫された,電気機器の鉄心材料用として製造されている鋼材です。
電磁鋼板は,鉄心に生じる損失,いわゆる鉄損を小さくするための工夫もされています。鉄損には渦電流損とヒステリシス損があります。
渦電流損は,鉄心内部に磁束の変化により電磁誘導により渦状に流れる電流が生じ,この電流が流れることにより生じる損失です。電流が流れることによる損失の大きさは,I2Rで求まるように,渦電流の大きさと渦電流が流れる物質の持つ電気抵抗の大きさに寄ります。渦電流の大きさ,電気抵抗の大きさが共に小さければ,渦電流損は小さくなりますが,電気抵抗を小さくすると渦電流が流れやすくなってしまい,その大きさの2乗で損失が大きくなってしまいます。そのため,渦電流そのものが流れにくい,電気抵抗の大きい材料を用いた方が渦電流損は小さくなります。
ヒステリシス損は,鉄心の内部に生じる磁束の向きと大きさの変化により,鉄心材料の分子の方向や配列が変わる際に生じる,分子間の摩擦熱による損失です。
鋼板にケイ素を加えると,鉄心内部の結晶の方向が揃いやすくなり,ヒステリシス損が小さくなります。結晶の方向が揃っているとヒステリシス損が小さくなる理由はよく分かりませんが,結晶の方向がバラバラだと,磁束に変化により分子の向きが変わるときに,無駄に大きく動く必要がある分子があり摩擦熱が大きくなってしまう,というようなことかも知れません。ケイ素を加えるとヒステリシス損が小さくなるというのは事実ですので,電験合格という目的のために,これは覚えておいた方がよいかと思います。
なお,ケイ素を加えると,鉄心の電気抵抗が大きくなるため,渦電流損を小さくする効果もあるようです。
電磁鋼板の表面は絶縁被膜で覆われていますが,このような鋼板を重ねて鉄心は構成されています。鋼板1枚あたりの厚さが薄くなるため,渦電流が流れにくくなり,渦電流損を小さくできます。
したがって,ケイ素を加える理由は主にヒステリシス損を小さくすることであり,表面が絶縁被膜で覆われているのは,渦電流損を小さくするためですので,この問題文の記述は誤りです。
(3)
変圧器のコイル,鉄心で発生する損失は全て熱となります。この熱による変圧器の温度上昇を規定値以内とするため,変圧器を冷却する必要があり,その冷却の媒体として,油,空気,ガスなどが用いられています。
なお,油,ガスは変圧器内部の絶縁材料としての役割もあります。
したがってこの問題文の記述は正しいです。
(4)
変圧器のコイルと鉄心が,絶縁油で満たされたタンクの中に設置された変圧器のことを,油入変圧器と呼びます。
絶縁油は文字取り,変圧器コイルの絶縁を保つためと,変圧器の損失により生じる熱を冷却するための目的があります。
油の絶縁性能を長期間にわたり確保するためには,絶縁油に用いる油の化学的な性質が安定であることが必要です。
また油で満たされた変圧器が火災になると大事故につながるため,絶縁油には引火点の高い油が使用されています。
冷却の目的からは,油の流動性が高く,比熱が大きい油の方が冷却の効果は高くなります。
したがってこの問題文の記述は正しいです。
(5)
変圧器の負荷が大きい場合,コイルに流れる電流が大きくなるため,変圧器の損失により発生する熱は多くなります。反対に負荷が小さいと発生する熱は少なくなります。
このため,油入変圧器の絶縁油は,変圧器の負荷変化によりその温度が変化し,膨張したり収縮したりします。絶縁油が変圧器のタンクの内部で膨張,収縮すると,それに伴うタンク内部の圧力変化により,タンクの隙間から外部の空気を取り込んだり吐き出したりするようになります。これを変圧器の呼吸作用といいます。
外部の空気を直接タンク内部に取り込んでしまうと,空気に含まれる水分や酸素が絶縁油と接することになり,その結果,油が酸化し絶縁油の絶縁耐力が低下してしまいます。
これを防止するために,変圧器タンクの上部に小さなタンクを設置して,変圧器内部の絶縁油の膨張,収縮による体積の変化を,その上部のタンクの中で吸収し,絶縁油が外部の空気と直接触れないように工夫しています。この上部のタンクのことをコンサベータといいます。
コンサベータで絶縁油の体積変化を吸収する方式として,下図のように開放式,窒素封入式,隔膜式(エア・シール・セル式)があります。
開放式はコンサベータの内部に空気で満たした空間を作り,絶縁油の体積変化をコンサベータ内部の空気の体積変化で調整します。その調整のために外部の空気を取り込んだ入り吐き出したりする必要がありますが,空気の出入り口にシリカゲルなどの吸湿剤を入れ,外部の空気の水分を吸収するようにしています。このような出入り口の装置のことをブリーザと呼んでいます。
窒素封入式はコンサベータの内部を窒素ガスで満たした方法です。窒素ガスは外部に漏れ出さないように密閉されているため,絶縁油の体積変化は窒素ガスの体積の変化で吸収しています。絶縁油の体積が増えると,窒素ガスの体積は小さくなるため,窒素ガスの圧力が高まります。
なお,コンサベータを設けずに変圧器本体に空間を作り,その空間に窒素ガスを満たした方式の変圧器もあります。
隔膜式はコンサベータの内部にゴム製のセル(袋のようなもの)を入れ,そのゴムセルが絶縁油の体積変化に合わせて伸縮することで絶縁油の体積変化を吸収しています。絶縁油が外部の空気と接することが無いため,絶縁油の劣化防止能力が最も優れています。
色々補足しましたが,この問題文の記述は正しいです。
解答
(2)