第3種 機械 R2年度

電験三種 令和2年度 機械 問10『IGBTとパワーMOSFETに関する問題』

問題

パワー半導体スイッチングデバイスとして近年,主にIGBTとパワーMOSFETが用いられている。両者を比較した記述として,誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。

(1)IGBTは電圧駆動形であり,ゲート・エミッタ間の電圧によってオン・オフを制御する。
(2)パワーMOSFETは電流駆動形であり,キャリア蓄積効果があることからスイッチング損失が大きい。
(3)パワーMOSFETはユニポーラデバイスであり,バイポーラ形のデバイスと比べてオン状態の抵抗が高い。
(4)IGBTはバイポーラトランジスタにパワーMOSFETの特徴を組み合わせることにより,スイッチング特性を改善している。
(5)パワーMOSFETではシリコンのかわりにSiCを用いることで,高耐圧化をしつつオン状態の抵抗を低くすることが可能になる。

 

解説

(1)

IGBTはInsulated Gate Bipolar Transistorの頭文字をとった半導体デバイスで,絶縁ゲート型バイポーラートランジスターとも呼ばれています。IGBTの基本的な構成は下図のようになっており,パワーMOSFETにバイポーラトランジスタが接続されたような構造になっています。

ゲートは絶縁膜で絶縁されており,下図のようにゲートとエミッタ間にゲート側が正になるように電圧V_{GE}を加えると,ゲートの酸化皮膜の下にあるp層半導体の上部に少数キャリアである電子が引き寄せられるため,n層(nチャネル)が形成されます。

このnチャネルを通して,n+層からn-層に電子が流れるようになり,エミッタとコレクタ間にコレクタ側が正になるように電圧V_{CE}を加えると,コレクタとエミッタ間は順方向のPN接続のようになるため,電流が流れます。

ゲート電極に加える電圧をゼロあるいは負の電圧とすると,p層半導体の上部の電子が追いやられ,nチャネルが消滅するため,電流が流れなくなります。

このように,ゲート電圧により電流の経路となるチャネルを開閉することでオン・オフの制御をしているため,電圧駆動形デバイスと呼ばれています。

したがって,この問題文の記述は正しいです。

 

(2)

パワーMOSFETは,MOSFETを大電流に対応できるように設計されたものです。パワーMOSFETの基本的な構成は下図のようになっています。

ゲートは絶縁膜で絶縁されており,下図のようにゲートとソース間にゲート側が正になるように電圧を印加すると,ゲート下部のp層にnチャネルが形成され,ドレーンとソース間は全てn形となるため電流が流れます。ゲートとソース間の電圧をゼロあるいは負とすると,nチャネルがなくなるため,電流は流れなくなります。このように,ゲートに加える電圧によりオン・オフの制御を行なっているため,電圧駆動形デバイスと呼ばれています。

キャリア蓄積効果とは,ダイオードなどのPN接合された半導体において,順方向電圧から逆方向電圧に切り替えをする際,N形半導体からP形半導体へ戻る正孔による拡散電流が流れるため,逆方向にスパイク状の電流が流れる現象のことです。キャリア蓄積効果はバイポーラトランジスタに見られる現象です。

したがって,この問題文の記述は誤りです。

 

(3)

ユニポーラデバイスとは,電流の経路が1つの種類,言い換えるとキャリアが1種類の半導体によるデバイスのことであり,パワーMOSFETは問題(2)の構成図でみたとおりキャリアが1種類であるため,ユニポーラデバイスです。

バイポーラデバイスとは,キャリアが正孔と電子の2種類によるものです。

IGBTなどのバイポーラデバイスでは,オン状態のときに,ドリフト層と呼ばれるN-の領域にP+層からは正孔が,N+層からは電子が大量に注入され,N-層のキャリア密度が非常に高くなります。そのため,N-層の伝導率が上がる,すなわち抵抗値が小さくなりますが,この現象は伝導率変調と呼ばれています。

ユニポーラデバイスではこのような現象がないため,オン状態における抵抗値はバイポーラデバイスに比べて大きくなります。

したがって,この問題文の記述は正しいです。

 

(4)

IGBTの構成は問題(1)でみたとおり,パワーMOSFETにバイポーラトランジスタが接続されたような構造となっています。バイポーラトランジスタではスイッチングの際に,キャリア蓄積効果により高速なスイッチングには向いていませんが,IGBTではスイッチングをパワーMOSFETと同様にゲートに加える電圧により行なっているため,高速なスイッチングが可能になっています。

バイポーラトランジスタは,オンのときの抵抗値が小さいですが,スイッチング速度が遅いという欠点があり,一方でパワーMOSFETはオンのときの抵抗が大きいものの,スイッチングが高速という利点があるため,IGBTはこれらのいいところをとったデバイスになっています。

 

(5)

SiCはシリコンカーバイドのことであり,シリコン(Si)と炭素(C)で構成された化合物半導体材料です。SiCはシリコンに比べて,絶縁破壊電界強度が高いため,オンの時の抵抗となるドリフト層の厚さを薄くすることが可能になります。したがって,高耐圧化をしつつも,オン状態の抵抗を小さくすることができます。

したがって,この問題文の記述は正しいです。

 

解答

(2)

 

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