第3種 機械 R2年度

電験三種 令和2年度 機械 問16『単相インバータの動作に関する問題』

問題

図1は,直流電圧源から単相インバータで誘導性負荷に交流を給電する基本回路を示す。負荷電流io(t)と直流側電流id(t)は図示する矢印の向きを正の方向として,次の(a)及び(b)の問に答えよ。

(a)各パワートランジスタが出力交流電圧の1周期Tに1回オンオフする運転を行なっている際のある時刻t0から1周期の波形を図2に示す。直流電圧がE[V]のとき,交流側の方形波出力電圧の実効値として,最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。

(1)0.5E  (2)0.61E  (3)0.86E  (4)E  (5)1.15E

(b)小問(a)のとき,負荷電流io(t)の波形が図3の(ア)〜(ウ),直流側電流id(t)の波形が図3の(エ),(オ)のいずれかに示されている。それらの波形の適切な組合せを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。

(1)(ア)と(エ)  (2)(イ)と(エ)  (3)(ウ)と(オ)
(4)(ア)と(オ)  (5)(イ)と(オ)

 

解説

(a)

交流側の方形波出力電圧の波形とは,誘導性負荷の両端の端子にかかる電圧の波形のことです。問題の図2に,各パワートランジスタがオン,オフとなるタイミングが記載されていますので,このとおりに動作したときに,誘導性負荷の両端の電圧がどうなるか確認をします。

図2を見ると,時刻がt_0からt_0+\dfrac{T}{2}の間は,S1とS4がオン,S2とS3がオフであるため,この期間は誘導性負荷の抵抗側の端子を正とすると,両端子間には直流電圧Eが印加されています。

時刻がt_0+\dfrac{T}{2}からt_0+Tの間は,先ほどとは逆にS2とS3がオン,S1とS4がオフであるため,この期間は誘導性負荷のインダクタンス側の端子に電圧Eがかかるため,誘導性負荷の抵抗側の端子を正とすると,両端子間には直流電圧-Eが印加されています。

これを図に表すと,誘導性負荷の両端に印加される電圧波形は以下のとおりとなります。

この波形から,電圧の実効値を求めます。

電圧の実効値は,瞬時の電圧値をvとしたとき,以下の式で求めることができます。

電圧の実効値 = \sqrt{1周期分のv^2の面積の平均値}

ここで1周期分のv^2の面積というのは,求めた電圧の波形で考えると,以下の赤色で示した範囲です。

この面積は図より,

E^2 \dfrac{T}{2} + E^2 \dfrac{T}{2} = E^2 T

と求まります。この面積の1周期Tにおける平均は,面積を周期Tで割ればよいので,

\dfrac{E^2 T}{T} = E^2

と求まります。この値のルート(平方根)をとったものが実効値となるため,問題の電圧波形の実効値は,

\sqrt{E^2} = E

と求まり,解答は(4)になります。

 

(b)

インバータにより負荷に印加される電圧の波形は,問題(a)でみたように,印加される直流電圧の向きが周期的に変化するような波形になっています。負荷は抵抗とインダクタンスが直列に接続された回路ですので,この回路に直流電圧が印加されると,インダクタンスの作用により過渡現象が生じます。(これについては,「直流回路における過渡現象」においても解説しています。)

直流電圧の向きはインバータにより周期的に変化しているため,負荷に流れる電流は,この過渡現象が連続するような波形になります。イメージを掴むために,電圧,電流の波形の結果をグラフにすると,以下のようになります。赤色の波形が電圧,青色の波形が電流を表しています。また,電圧は負荷の抵抗側を正,電流は負荷の抵抗側からインダクタンス側に流れる方向を正としています。

上記グラフの①から④の期間において,負荷に印加される電圧,負荷に流れる電流の状態をもう少し詳しく説明します。

期間①
この期間における,負荷に印加される電圧,回路に流れる電流は以下の図のようになります。

①の期間では,パワートランジスタS1とS4がオンであるため,負荷には抵抗側に正の電圧が印加されています。負荷に流れる電流は,①の以前の状態が負の値,すなわちインダクタンス側から抵抗側に流れていましたので,この状態から徐々に電圧の向きと同じ方向に流れようとして,逆方向に流れていた電流が,徐々に減少している状態です。その電流はパワートランジスタS1とS4にそれぞれ並列に接続されたダイオードを経由して,電源側に流れています。

期間②
この期間における,負荷に印加される電圧,回路に流れる電流は以下の図のようになります。

②の期間でも,パワートランジスタS1とS4がオンであるため,負荷には抵抗側に正の電圧が印加されています。負荷に流れる電流は,①の期間において電圧の向きとは逆方向に流れていましたが,それが0になり,②の期間に入ってからようやく電圧の向きと同じ方向に流れ始め,それが徐々に増えていっている状態です。その電流はパワートランジスタS1とS4を経由して,電源側から負荷側に流れています。

期間③
この期間における,負荷に印加される電圧,回路に流れる電流は以下の図のようになります。

③の期間では,パワートランジスタS2とS3がオンであるため,負荷にはリアクタンス側に正の電圧が印加されています。(グラフでは負の電圧として表現されます。)②の期間において電圧の向きと同じ方向に流れていた負荷の電流は,負荷に印加される電圧の向きが逆になったため,徐々に減少している状態です。その電流はパワートランジスタS2とS3にそれぞれ並列に接続されたダイオードを経由して,電源側に流れています。

期間④
この期間における,負荷に印加される電圧,回路に流れる電流は以下の図のようになります。

④の期間でも,パワートランジスタS2とS3がオンであるため,負荷には③の期間と同様にインダクタンス側に正の電圧が印加されています。③の期間において徐々に減少していた負荷の電流が0になり,④の期間に入ってから電圧の向きと同じ方向に徐々に増えていっている状態です。その電流はパワートランジスタS2とS3を経由して,電源側から負荷側に流れています。

グラフの波形は負荷の抵抗側を正として記載していますので,④の期間では電圧,電流ともに負の値として記載されています。

電源側の電流の状態
今度は期間①から④における,電源側の電流の波形を確認します。

これまでに確認した期間①から④のそれぞれにおいて,回路の電源側の電流の向きをみてみると,期間①と期間③では負荷側から電源側の向きに電流が流れ,期間②と期間④では電源側から負荷側に電流が流れています。

期間①と期間③の違いですが,期間①ではパワートランジスタS1とS4にそれぞれ並列に接続されたダイオードを経由して,電源側に電流が戻ってきています。
期間③では,パワートランジスタS2とS3にそれぞれ並列に接続されたダイオードを経由して,電源側に電流が戻っています。

電源側から見ると,負荷の電流がパワートランジスタS1に並列接続されたダイオードから出てきているのか,パワートランジスタS3に並列接続されたダイオードから出てきているのかの違いであり,電源側に流れる電流の向きは変わりません。

したがって,電源側の電流としては,期間①と期間③は同じ波形になります。波形の形そのものは,負荷に流れる電流波形と同じであるため,期間③における電源側の電流波形は,負荷の電流波形とは向きが逆の波形になります。

期間②と期間④の違いについても,上記と同じ考え方ですのでここでは省略します。

以上より,電源側の電流波形をグラフにすると以下のようになります。

 

従って,負荷回路に流れる負荷電流の波形は(ア),電源回路に流れる電流波形は(エ)となりますので,解答は(1)となります。

 

解答

(a)(4)
(b)(1)

 

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