問題
次の文章は,「電気設備技術基準の解釈」に基づく低圧屋内配線の施設場所による工事の種類に関する記述である。
低圧屋内配線は,次の表に規定する工事のいずれかにより施設すること。ただし,ショウウィンドー又はショウケース内,粉じんの多い場所,可燃性ガス等の存在する場所,危険物等の存在する場所及び火薬庫内に低圧屋内配線を施設する場合を除く。
上記の表の空白箇所(ア)〜(ウ)に当てはまる組合せとして,正しいものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
解説
低圧屋内配線の施設場所による工事の種類については,「電気設備技術基準の解釈」第156条に記載があります。問題の表も同条文に記載されている表と同じものです。その表は以下の通りです。
この表を見ると,表の一番上に工事の種類が記載されており,表の左端には低圧の屋内配線をどういう場所で行うのか,場所の条件が記載されています。
そもそも,記載されている工事の種類がどういうものか,概要だけでも理解していないと,この問題の解答は難しいと思いますので,まずは工事の種類毎にその概要を説明します。
工事の概要
工事の種類を大きく分けると,以下のような種類に分類できます。
・がいし引き工事
・管路工事
・線ぴ工事
・ダクト工事
・ケーブル工事
・平形保護層工事
それぞれの工事の概要は以下の通りです。
がいし引き工事
電線をがいしで支えて,そのがいしを屋内の壁や梁などに固定して配線する工事です。昭和初期ころまでに実際には使われていた配線方法ですが,最近はこの工事方法で屋内の配線をすることは無いかと思います。実物は古い建物を残した博物館くらいでしか見れないでしょうか。
がいし引き工事で施工する際に守るべきことは,「電気設備技術基準の解釈」第157条に記載されています。
管工事
電線を管の中に収めて,その菅を屋内に設置する方法の工事です。管の種類に応じて,「電気設備技術基準の解釈」では,合成樹脂管,金属管,金属可とう電線管と分類されています。それぞれの管の種類毎にどういう条件で設置する必要があるか,「電気設備技術基準の解釈」の以下の条文にそれぞれ記載されています。
第158条 合成樹脂管工事
第159条 金属管工事
第160条 金属可とう電線管工事
線ぴ工事
線ぴの「ぴ」とは,「樋(とい,ひ)」のことで,樋というのは元々は水を流すための竹や木で作られた長い管のことです。そのような線ぴに収める屋内の配線工事について,「電気設備技術基準の解釈」では金属製の線ぴのみ認めており,金属線ぴ工事と呼んでいます。金属線ぴ工事による施工の条件は,「電気設備技術基準の解釈」第161条に記載されています。
第161条において,金属線ぴ工事で使用する金属製線ぴの幅は5cm以下と定められています。なお,幅についてあえて記載したのは,次のダクト工事の説明とも関連があるためです。
ダクト工事
「ダクト」とは英語のductのことで,冷暖房や換気のための送風管,風道のことを言います。このようにダクトのような形状をした物の中に電線を収める屋内の配線工事について,「電気設備技術基準の解釈」では,ダクトの種類や施工箇所,目的によって,金属ダクト工事,バスダクト工事,フロアダクト工事,セルラダクト工事,ライティングダクト工事に分類しています。
金属ダクト工事
金属ダクト工事は,ダクトの素材に金属が使用されているダクトを用いた工事です。ダクトは線ぴ工事で説明した「樋」に形状が似ているため,線ぴ工事と似ているとも言えますが,「電気設備技術基準の解釈」では,その幅が5cmを超えるものは金属ダクト工事として分類されています。金属ダクト工事による施工の条件は,「電気設備技術基準の解釈」第162条に記載されています。
なお,「電気設備技術基準の解釈の解説」には,金属ダクト工事の説明に以下の図が記載されています。
バスダクト工事
バスダクト工事は,金属ダクト工事と同様に,ダクトを用いた工事ですが,金属ダクトとの大きな違いは,ダクトの内部に使用できる電線に制約があるか無いかという点です。金属ダクト工事で使用できる電線は,「電気設備技術基準の解釈」第162条第1項第一号に『一 絶縁電線(屋外用ビニル絶縁電線を除く。)であること。』と記載されているとおり,導体を絶縁被覆で覆われた絶縁電線である必要があります。
一方,バスダクト工事ではダクトに収納する電線の種類については規定がありません。実際にバスダクト工事で使用されている電線は,線というよりも帯状の形状をした導体バーが使われる例が多いかと思います。その導体バーそのものに被覆がない場合は,ダクトの底部などにがいしを取り付け,そのがいし上に導体バーが設置されます。導体バーそのものに被覆がされる例もあるようです。
なお,バスダクトのバスは英語のBusのことで,幹線を意味する用語です。主に幹線部分で使われることが多いため,そのような名称になっているのかと思います。
バスダクト工事による施工の条件は,「電気設備技術基準の解釈」第163条に記載されています。
フロアダクト工事
フロアダクト工事は,事務室等で床下のコンクリート内部に,フロアダクトと呼ばれるダクトを設置して,その内部に電線を通す工事です。フロアダクト工事による施工の条件は,「電気設備技術基準の解釈」第165条の第1項に記載されています。
「電気設備技術基準の解釈の解説」には,フロアダクト工事の説明に以下の図が記載されています。
なお,第165条は「特殊な低圧屋内配線」についての規定で,フロアダクト工事は,特殊な低圧屋内配線として分類されています。以降で説明する,セルラダクト工事,ライティングダクト工事,平形保護層工事についても,特殊な低圧屋内配線としての分類になっています。
セルラダクト工事
セルラダクト工事は,鉄骨の建造物などの床の材料として使われる,デッキプレートと呼ばれる,強度を保つために波形に形作られた鋼板の溝の部分を使って配線する工事です。セルラダクト工事による施工の条件は,「電気設備技術基準の解釈」第165条の第2項に記載されています。
「電気設備技術基準の解釈の解説」には,セルラダクト工事の説明に以下の図が記載されています。
上図に記載されている「デッキプレート」に配線が行われます。上図の例では,「強電」と記載されている箇所に配電用の電線が通ります。
セルラダクト工事は,フロアダクト工事と組み合わせて施工される例が多いことから,図にはフロアダクトの絵も記載されています。
ライティングダクト工事
ライティングダクト工事は,ライティングダクトを用いて施工する工事のことです。ライティングダクトとは,スポットライトなどの照明やコンセントなどを差し込み型にして,それらを好きな位置に取り付けることができるように,ダクトの内部にレール状の導体を配置したものです。カーテンレールに似た形状の内部に導体があるというイメージです。
スーパーやデパートなどで売り場の配置によって,照明やコンセントの位置を変えたい場合に使われたり,一般の家屋でもおしゃれな部屋などで,スポットライトを好きな位置に配置できるようにするために使われることもあります。
ライティングダクト工事による施工の条件は,「電気設備技術基準の解釈」第165条の第3項に記載されています。
平形保護層工事
平形保護層工事は,カーペットの下などに施工できるように,薄い平形の絶縁電線を上下を保護するための保護層で挟んで施工する工事です。電気設備の技術基準の解釈の解説には,『平形保護層工事は、平形保護層(上部保護層、上部接地用保護層及 び下部保護層によりなるもの)内に平形導体合成樹脂絶縁電線を入れ、床面に粘着テープにより固定し、タイルカーペ ット等の下に施設する低圧屋内配線工事』と説明されており,以下の図が記載されています。
平形保護層工事による施工の条件は,「電気設備技術基準の解釈」第165条の第4項に記載されています。
工事毎の施設場所,電圧区分の制限
「電気設備技術基準の解釈」第156条では,施工場所の区分を以下の大きな3つに分類しています。
・展開した場所
・点検できる隠ぺい場所
・点検できない隠ぺい場所
上記の場所について,「電気設備技術基準の解釈」では,第1条第29号から第31号において,以下のように定義しています。
『点検できない隠ぺい場所 天井ふところ、壁内又はコンクリート床内等、工作物を破壊しなければ電気設備に接近し、又は電気設備を点検できない場所』
『点検できる隠ぺい場所 点検口がある天井裏、戸棚又は押入れ等、容易に電気設備に接近し、又は電気設備を点検できる隠ぺい場所』
『展開した場所 点検できない隠ぺい場所及び点検できる隠ぺい場所以外の場所』
この3つの設置場所で,さらにそれぞれ以下のような湿気に関する分類があります。
・乾燥した場所
・湿気の多い場所又は水気のある場所
これらについても,「電気設備技術基準の解釈」第1条第26号から第28号において,以下のように定義されています。
『水気のある場所 水を扱う場所若しくは雨露にさらされる場所その他水滴が飛散する場所、又は常時水が漏出し若しくは結露する場所』
『湿気の多い場所 水蒸気が充満する場所又は湿度が著しく高い場所』
『乾燥した場所 湿気の多い場所及び水気のある場所以外の場所』
最後に使用電圧の区分として,
・300V以下
・300V超過
と区分けされています。なお,隠ぺい場所で湿気の多い場所又は水気のある場所については,使用電圧の区分はありません。
それでは,各工事の概要をイメージしながら,工事毎の施工可能場所,電圧区分の制限について確認していきます。
がいし引き工事
がいし引き工事については,「点検できない隠ぺい場所」での施工は認められておらず,それ以外であれば,湿気や使用電圧の区分に関わらず施工が可能と定められています。
「がいし引き工事は,点検が可能であれば,どんな条件でも施工可能」と覚えましょう。あるいは,点検できない隠ぺい場所以外であれば施工可能と覚えてもよいでしょう。
管工事,ケーブル工事
管工事である,合成樹脂管工事,金属管工事,金属可とう電線管工事と,ケーブル工事は,すべての施設場所の区分,使用電圧の区分で施工が可能です。
「管工事,ケーブル工事は,どこでも施工可能」と覚えましょう。
金属線ぴ工事
金属線ぴ工事は,展開した場所で乾燥した場所,点検できる隠ぺい場所で乾燥した場所において,それぞれ使用電圧が300V以下の場合に,施工が可能とされています。
「金属線ぴ工事は,使用電圧が低く,点検可能な乾燥した場所でのみ施工可能」と覚えましょう。繰り返しになりますが,点検可能な場所には,展開した場所も含まれます。
金属ダクト工事
金属ダクト工事は,施設の場所の区分は金属線ぴ工事と同じですが,使用電圧の区分が300V超過の場合でも施工可能となっています。
「金属ダクト工事は,電圧の制限なく,点検可能な乾燥した場所でのみ施工可能」と覚えましょう。金属線ぴ工事の電圧制限なし版と覚えてもよいでしょう。
バスダクト工事
バスダクト工事は,金属ダクト工事の施設の場所の区分,使用電圧の区分にプラスして,展開した場所で湿気の多い場所又は水気のある場所において,使用電圧が300V以下であれば,施工が認められています。
「バスダクト工事は,点検可能な乾燥した場所であれば,電圧の制限なく施工可能,使用電圧が低ければ,湿気がある展開した場所でも施工が可能」と覚えましょう。金属ダクト工事の施工場所の条件に加えて,電圧が低ければ湿気の多い展開した場所で場所も施工可能,と覚えてもよいでしょう。
フロアダクト工事
フロアダクト工事は,床下のコンクリート内部に埋め込む方法の工事であるので,施設場所としては,点検できない隠ぺい場所しかありえません。その中でも乾燥した場所であり,かつ電圧が300V以下の場合のみ,この工事方法の施工が認められています。
「フロアダクト工事は,床下のコンクリート内部なので点検できない隠ぺい場所であり,その場所は乾燥しており,使用電圧は低いもののみ施工可能」と覚えましょう。
セルラダクト工事
セルラダクト工事は,フロアダクト工事で施工可能な場所に加えて,点検できる隠ぺい場所でも施工が可能です。湿度,使用電圧の条件はフロアダクト工事と同様,乾燥した場所で,300V以下に限られています。
「セルラダクト工事は,点検の可否にかかわらず乾燥した隠ぺい場所で,使用電圧が低い場合に施工可能」と覚えましょう。
ライティングダクト工事
ライティングダクト工事は,点検が可能な隠ぺい場所と展開した場所において,乾燥した場所で使用電圧が300V以下の場合のみ,施工が認められています。
「ライティングダクト工事は,点検可能な乾燥した場所で,使用電圧が低い場合に施工可能」と覚えましょう。
平形保護層工事
平形保護層工事は,カーペットの下などに施工する工事方法であるため,乾燥した点検できる隠ぺい場所で,かつ使用電圧が300V以下の場合のみ,施工が認められています。
「平形保護層工事は,カーペットの下なので,乾燥した点検可能な隠ぺい場所で,電圧が低い場合に施工可能」と覚えましょう。
解答の考え方
以上を踏まえて,解答の選択肢を選びます。
(ア)〜(ウ)に入る工事方法の選択肢は,問題に記載されているとおり,金属線ぴ工事,金属ダクト工事,バスダクト工事の3つです。表を見ると,施工できる範囲が少しずつ増えています。
これら3つの工事方法の中で最も施工場所の範囲が狭いのは,金属線ぴ工事です。
金属線ぴ工事の施工可能場所と同じでも,電圧制限が無く施工可能なのは,金属ダクト工事です。
金属ダクト工事の施工範囲に加えて,電圧が低ければ湿気の多い展開した場所で場所も施工可能なのは,バスダクト工事です。
したがって,金属線ぴ工事,金属ダクト工事,バスダクト工事の順に施工範囲が広くなっていますので,(ア)は金属線ぴ,(イ)は金属ダクト,(ウ)はバスダクトが正しい選択肢となります。
解答
(1)