第3種 法規 R2年度

電験三種 令和2年度 法規 問11『供給支障事故に関する問題』

問題

電気工作物に起因する供給支障事故について,次の(a)及び(b)の問に答えよ。

(a)次の記述中の空白箇所(ア)〜(エ)に当てはまる組合せとして,正しいものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
① 電気事業法第39条(事業用電気工作物の維持)において,事業用電気工作物の損壊により\fbox{(ア)}者の電気の供給に著しい支障を及ぼさないようにすることが規定されている。
② 「電気関係報告規則」において,\fbox{(イ)}を設置する者は,\fbox{(ア)}の用に供する電気工作物と電気的に接続されている電圧\fbox{(ウ)}V以上の\fbox{(イ)}の破損又は\fbox{(イ)}を操作しないことにより\fbox{(ア)}者に供給支障を発生させた場合,電気工作物の設置の場所を管轄する産業保安監督部長に事故報告をしなければならないことが規定されている。
③ 図1に示す高圧配電系統により高圧需要家が受電している。事故点1,事故点2又は事故点3のいずれかで短絡等により高圧配電系統に供給支障が発した場合,②の報告対象となるのは\fbox{(エ)}である。

(b)次の記述中の空白箇所(ア)〜(エ)に当てはまる組合わせとして,正しいものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
① 受電設備を含む配電系統において,過負荷又は短絡あるいは地絡が生じたとき,供給支障の拡大を防ぐため,事故点直近上位の遮断器のみが動作し,他の遮断器は動作しないとき,これらの遮断器の間では\fbox{(ア)}がとられているという。
② 図2は,図1の高圧需要家の事故点2又は事故点3で短絡が発生した場合の過電流と遮断器(遮断器A及び遮断器B)の継電器動作時間の関係を示したものである。\fbox{(ア)}がとられている場合,遮断器Bの継電器動作特性曲線は,\fbox{(イ)}である。
③ 図3は,図1の高圧需要家の事故点2で地絡が発生した場合の零相電流と遮断器(遮断器A及び遮断器B)の継電器動作時間の関係を示したものである。\fbox{(ア)}がとられている場合,遮断器Bの継電器動作特性曲線は,\fbox{(ウ)}である。また,地絡の発生箇所が零相変流器より負荷側か電源側かを判別するため\fbox{(エ)}の使用が推奨されている。

 

解説

(a)①

問題に記載された内容については,電気事業法第39条第2項第三号に記載されています。

『第三十九条 事業用電気工作物を設置する者は、事業用電気工作物を主務省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない。
2 前項の主務省令は、次に掲げるところによらなければならない。
一 事業用電気工作物は、人体に危害を及ぼし、又は物件に損傷を与えないようにすること。
二 事業用電気工作物は、他の電気的設備その他の物件の機能に電気的又は磁気的な障害を与えないようにすること。
三 事業用電気工作物の損壊により一般送配電事業者又は配電事業者の電気の供給に著しい支障を及ぼさないようにすること。
四 事業用電気工作物が一般送配電事業又は配電事業の用に供される場合にあつては、その事業用電気工作物の損壊によりその一般送配電事業又は配電事業に係る電気の供給に著しい支障を生じないようにすること。』

したがって,(ア)に入るのは「一般送配電事業又は配電事業」が正解となりますが,選択肢には配電事業が含まれたものはありません。

上記条文は令和4年11月14日施行の条文を抜粋しており,問題が出題された当時よりも新しいものです。この問題が出題された当時は,「配電事業」がまだ定められていなかったため,当時の正解としては「一般送配電事業」となります。

なお,一般送配電事業というのは,簡単に言うと,送電線や配電線を使って,発電所からの電気を需要家へ送り届けるための事業のことです。事業用電気工作物が損壊した場合に,送電線や配電線にまで影響を与えると,電気の供給の面での影響が大きくなるため,この規定が定められています。

 

(a)②

電気関係報告規則の第3条に,事故報告についての規定があります。この条文において,事故の内容毎にどこに報告をすべきかが表で示されています。問題に記載されている事故については,同条文の表で以下のように記載されています。

事故 報告先
電気事業者 自家用電気工作物を設置する者
十二 一般送配電事業者の一般送配電事業の用に供する電気工作物、配電事業者の配電事業の用に供する電気工作物又は特定送配電事業者の特定送配電事業の用に供する電気工作物と電気的に接続されている電圧三千ボルト以上自家用電気工作物の破損又は自家用電気工作物の誤操作若しくは自家用電気工作物を操作しないことにより一般送配電事業者、配電事業者又は特定送配電事業者に供給支障を発生させた事故 電気工作物の設置の場所を管轄する産業保安監督部長

記載内容は自家用電気工作物に関してであるため,(イ)に入るのは「自家用電気工作物」が正しいです。

(ウ)に入る電圧の大きさは,上記の表に記載のとおり3000Vです。

(ア)については①で説明した内容と同様に法令の施行年度の違いにより,上記の表には一般送配電事業者以外の事業者も記載されています。

 

補足

電気関係報告規則の第3条の表に記載されている報告先は,電気事業者が事故を発生させた場合と,自家用電気工作物を設置する者が発生させた場合に分けて記載されています。今回の問題の事故の内容は自家用電気工作物に関してであり,電気事業者が事故を発生させることには該当しないため,電気事業者の報告先の欄は空欄になっています。

 

(a)③

問題の図1に記載されている「保安上の責任分界点」というのは,それぞれの設備を保有する事業者が,その設備を管理する範囲の分かれ目を表す点です。

問題の図1に記載されている高圧需要家が設備を管理する範囲は,「保安上の責任分界点」から右側の点線で囲まれた範囲です。

高圧需要家は自家用電気工作物を設置する者であり,その高圧需要家の設備で事故が発生した場合に該当するのは,事故点2と事故点3での事故です。

事故点1は高圧配電線での事故であるため,一般送配電事業者などの設備での事故に該当します。

 

(b)①

問題の図1の事故点1,事故点2,事故点3で過負荷,短絡,地絡などの事故が発生した場合に,事故の継続を防ぐためにどの遮断器が動作するかを考えます。

事故点2又は事故点3で事故が発生した場合,事故発生点から電気の供給側の高圧配電線に最も近くに設置されている,遮断器Bで事故を遮断するのが最も停電範囲を少なくすることができます。

事故点1で事故が発生した場合は,電気はさらに上流の配電用変電所から供給されているため,同じような考え方で,遮断器Aで事故を遮断することになります。

事故点2又は事故点3で事故が発生した場合に,遮断器Aが動作してしまうと,図1に示された高圧需要家だけでなく,低圧需要家まで停電してしまうため,停電範囲が大きくなってしまいます。したがって,遮断器Aは遮断器Bが動作するよりも後に動作するような設定とする必要があります。

このように,遮断器の間で動作のタイミングの協調をとっていることを,保護協調をとっているといいます。

 

(b)②

先ほどの説明のとおり,事故点2又は事故点3で短絡事故が発生した場合,停電範囲をなるべく少なくするため,遮断器Aよりも遮断器Bを先に動作させる必要があります。

遮断器を動作させるのは保護継電器です。短絡事故を検出する保護継電器の場合,保護継電器は遮断器に流れる電流の大きさを常に監視しており,その電流の大きさがあらかじめ設定してある電流値(計算で求めた事故電流値)を超えた場合に,遮断器を動作させるための信号を出し,遮断器を動作させます。

事故点2又は事故点3で短絡事故が発生した場合,遮断器Aを動作させるための保護継電器と,遮断器Bを動作させるための保護継電器は,同じ大きさの事故電流を検出します。このとき,両方の継電器がその事故電流を検出してからすぐに遮断器を動作させるための信号をそれぞれ出すと,遮断器A,遮断器Bともにほぼ同時に動作してしまいます。

遮断器Bを先に動作させるためには,遮断器Aを動作させるための保護継電器は少し遅れて信号を出す必要があります。

図2の横軸の電流は,保護継電器が検出する電流の大きさを示しています。縦軸の時間は,保護継電器がある電流の大きさを検出してから,遮断器を動作させるための信号を出すまでの時間を表しています。曲線が2つあるため,2つの保護継電器の動作特性が示されています。

電流Iを検出した場合,曲線1の動作特性を持つ保護継電器は時間t1後に遮断器を動作させ,曲線2の動作特性を持つ保護継電器では時間t2後に遮断器を動作させます。図2の場合,t2<t1であるため,曲線2の特性を持つ保護継電器の方が曲線1の動作特性を持つ保護継電器よりも早く動作することになります。

したがって,遮断器Bの保護継電器の動作特性を示しているのは,曲線2になります。

 

(b)③

事故点2で地絡事故が発生した場合についても,遮断器Aと遮断器Bの保護継電器の動作時間の考え方は,問題(b)②と同様です。この場合も,遮断器Aよりも遮断器Bの方が先に動作しないと停電する範囲が広くなってしまいます。

図3の動作特性図において,曲線3と曲線4の動作特性を持つそれぞれの保護継電器が地絡電流I0を検出した場合,それぞれ時間t3,t4後に遮断器が動作します。

動作時間の関係は,t4<t3となっているため,遮断器Bの動作特性を表しているのは,曲線4になります。

地絡の発生した場所が,地絡電流を検出するための零相変流器が取り付けられた場所から負荷側か電源側かを判別するための保護継電器としては,地絡方向継電器が使用されます。

地絡距離継電器は,地絡が発生した場所が零相変流器が取り付けられている場所からどのくらい離れた場所で発生したかを検出するための保護継電器です。

 

解答

(a)(5)
(b)(4)

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