問題
次の文章は,「電気事業法」及び「電気事業法施行規則」に基づく,電気工作物の保安の確保に関する記述である。文中の\fbox{ }に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。
a) 一般用電気工作物以外の電気工作物を\fbox{(1)}という。\fbox{(1)}を\fbox{(2)}する者は,\fbox{(1)}の工事,維持及び運用に関する保安を確保するため,保安を一体的に確保することが必要な\fbox{(1)}の組織ごとに保安規程を定めなければならない。
b) \fbox{(1)}を\fbox{(2)}する者及びその\fbox{(3)}は,保安規程を守らなければならない。
c) 一般送配電事業,送電事業又は一定の要件に該当する発電事業の用に供する\fbox{(1)}を\fbox{(2)}する者は,保安規程において主任技術者の職務の範囲及びその内容並びに主任技術者が保安の\fbox{(4)}を行う上で必要となる権限及び\fbox{(5)}に関することを定めるものとする。
〔問1の解答群〕
(イ)維持 (ロ)使用 (ハ)事業用電気工作物
(ニ)地位 (ホ)組織上の位置付け (ヘ)管理
(ト)従業者 (チ)特定電気工作物 (リ)使用者
(ヌ)監督 (ル)所有 (ヲ)技術員
(ワ)待遇 (カ)設置 (ヨ)自家用電気工作物
解説
(1)
電気工作物の種類の定義に関する問題です。電気工作物は大きく分けて,「一般用電気工作物」と「事業用電気工作物」の2種類に分けられています。これらの定義は電気事業法の第38条にあります。
第三十八条 この法律において「一般用電気工作物」とは、次に掲げる電気工作物であつて、構内(これに準ずる区域内を含む。以下同じ。)に設置するものをいう。(以下省略)
2 この法律において「事業用電気工作物」とは、一般用電気工作物以外の電気工作物をいう。
(令和5年6月7日施行条文より抜粋)
上記の条文のとおり,一般用電気工作物以外の電気工作物が事業用電気工作物と定義されていますので,正解は(ハ)になります。
(2)
保安規定を定めなければならないのは誰であるのかという問題です。保安規定に関する定めは,電気事業法の第42条に記載があります。
第四十二条 事業用電気工作物(小規模事業用電気工作物を除く。以下この款において同じ。)を設置する者は、事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安を確保するため、主務省令で定めるところにより、保安を一体的に確保することが必要な事業用電気工作物の組織ごとに保安規程を定め、当該組織における事業用電気工作物の使用(第五十一条第一項又は第五十二条第一項の自主検査を伴うものにあつては、その工事)の開始前に、主務大臣に届け出なければならない。
(令和5年6月7日施行条文より抜粋)
上記条文のとおり,保安規定を定めなければならないのは,事業用電気工作物を設置する者とされていますので,正解は(カ)です。
(3)
保安規定を守らなければならないのは誰であるかという問題です。これについては,電気事業法の第42条第4項に定められています。
第四十二条
4 事業用電気工作物を設置する者及びその従業者は、保安規程を守らなければならない。
(令和5年6月7日施行条文より抜粋)
上記条文のとおり,保安規定を守らなければならないのは,事業用電気工作物を設置する者及びその従業者ですので,正解は(ト)です。
(4)(5)
保安規定に定める事項についての問題です。これについては,電気事業法施行規則の第50条に記載がありますが,第50条は文字が多く少し読みにくいので,先に読み方を補足します。
まず初めに,保安規定は事業用電気工作物の種類によって定めるとされています。その種類について,第50条第1項の第一号と第二号に記載されており,具体的には以下の2種類です。
- 事業用電気工作物であって、一般送配電事業、送電事業、配電事業又は発電事業(法第三十八条第四項第五号に掲げる事業に限る。次項において同じ。)の用に供するもの
- 事業用電気工作物であって、前号に掲げるもの以外のもの
一般送配電事業、送電事業、配電事業又は発電事業の用に供する事業用電気工作物の場合,その保安規定に定める事項は,第50条第2項の第一号から第十五号に記載されています。
それ以外の事業用電気工作物の場合には,第50条の第3項の第一号から第九号に項目が記載されています。
保安規定に定める必要のある項目の数が,それぞれ15個と9個と違いがあります。一般送配電事業、送電事業、配電事業又は発電事業の用に供する事業用電気工作物の保安規定に定める項目の数の方が多いことから,それ以外の事業用電気工作物よりも保安が厳しく規制されているのが分かります。
以下に第50条を記載します。見やすくするために途中に改行を加えています。
第五十条 法第四十二条第一項の保安規程は、次の各号に掲げる事業用電気工作物の種類ごとに定めるものとする。
一 事業用電気工作物であって、一般送配電事業、送電事業、配電事業又は発電事業(法第三十八条第四項第五号に掲げる事業に限る。次項において同じ。)の用に供するもの
二 事業用電気工作物であって、前号に掲げるもの以外のもの
2 前項第一号に掲げる事業用電気工作物を設置する者は、法第四十二条第一項の保安規程において、次の各号(その者が発電事業(その事業の用に供する発電等用電気工作物が第四十八条の二第一号に掲げる要件に該当するものに限る。)を営むもの以外の者である場合にあっては、第五号から第七号まで及び第十一号を除く。)に掲げる事項を定めるものとする。
一 事業用電気工作物の工事、維持又は運用に関する保安のための関係法令及び保安規程の遵守のための体制(経営責任者の関与を含む。)に関すること。
二 事業用電気工作物の工事、維持又は運用を行う者の職務及び組織に関すること(次号に掲げるものを除く。)。
三 主任技術者の職務の範囲及びその内容並びに主任技術者が保安の監督を行う上で必要となる権限及び組織上の位置付けに関すること。
四 事業用電気工作物の工事、維持又は運用を行う者に対する保安教育に関することであって次に掲げるもの
イ 関係法令及び保安規程の遵守に関すること。
ロ 保安のための技術に関すること。
ハ 保安教育の計画的な実施及び改善に関すること。
五 発電用の事業用電気工作物の工事、維持又は運用に関する保安を計画的に実施し、及び改善するための措置であって次に掲げるもの(前号に掲げるものを除く。)
イ 発電用の事業用電気工作物の工事、維持又は運用に関する保安についての方針及び体制に関すること。
ロ 発電用の事業用電気工作物の工事、維持又は運用に関する保安についての計画に関すること。
ハ 発電用の事業用電気工作物の工事、維持又は運用に関する保安についての実施に関すること。
ニ 発電用の事業用電気工作物の工事、維持又は運用に関する保安についての評価に関すること。
ホ 発電用の事業用電気工作物の工事、維持又は運用に関する保安についての改善に関すること。
六 発電用の事業用電気工作物の工事、維持又は運用に関する保安のために必要な文書の作成、変更、承認及び保存の手順に関すること。
七 前号に規定する文書についての保安規程上の位置付けに関すること。
八 事業用電気工作物の工事、維持又は運用に関する保安についての適正な記録に関すること。
九 事業用電気工作物の保安のための巡視、点検及び検査に関すること。
十 事業用電気工作物の運転又は操作に関すること。
十一 発電用の事業用電気工作物の保安に係る外部からの物品又は役務の調達の内容及びその重要度に応じた管理に関すること。
十二 発電所又は蓄電所の運転を相当期間停止する場合における保全の方法に関すること。
十三 災害その他非常の場合に採るべき措置に関すること。
十四 保安規程の定期的な点検及びその必要な改善に関すること。
十五 その他事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安に関し必要な事項
3 第一項第二号に掲げる事業用電気工作物を設置する者は、法第四十二条第一項の保安規程において、次の各号に掲げる事項を定めるものとする。ただし、鉱山保安法(昭和二十四年法律第七十号)、鉄道営業法(明治三十三年法律第六十五号)、軌道法(大正十年法律第七十六号)又は鉄道事業法(昭和六十一年法律第九十二号)が適用され又は準用される自家用電気工作物については発電所、蓄電所、変電 所及び送電線路に係る次の事項について定めることをもって足りる。
一 事業用電気工作物の工事、維持又は運用に関する業務を管理する者の職務及び組織に関すること。
二 事業用電気工作物の工事、維持又は運用に従事する者に対する保安教育に関すること。
三 事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安のための巡視、点検及び検査に関すること。
四 事業用電気工作物の運転又は操作に関すること。
五 発電所又は蓄電所の運転を相当期間停止する場合における保全の方法に関すること。
六 災害その他非常の場合に採るべき措置に関すること。
七 事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安についての記録に関すること。
八 事業用電気工作物(使用前自主検査、溶接自主検査若しくは定期自主検査(以下「法定自主検査」と総称する。)又は法第五十一条の二第一項若しくは第二項の確認(以下「使用前自己確認」という。)を実施するものに限る。)の法定自主検査又は使用前自己確認に係る実施体制及び記録の保存に関すること。
九 その他事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安に関し必要な事項』
(令和5年10月1日施行条文より抜粋)
問題は,一般送配電事業,送電事業又は一定の要件に該当する発電事業の用に供する事業用電気工作物の保安規定に定める項目に関してですので,第50条の第2項の内容が該当します。主任技術者に関しては,第2項の第三号に記載があり,それを抜粋すると,
三 主任技術者の職務の範囲及びその内容並びに主任技術者が保安の監督を行う上で必要となる権限及び組織上の位置付けに関すること。
とありますので,(4)に入る用語は「監督」,(5)に入る用語は「組織上の位置付け」となります。
第50条の第2項と第3項を比較すると分かりますが,主任技術者の権限や組織上の位置付けについてを保安規定に定める必要があるのは,一般送配電事業,送電事業又は一定の要件に該当する発電事業の用に供する事業用電気工作物のみで,それ以外の事業用電気工作物の保安規定には定める必要がない項目になっています。
一般送配電事業,送電事業又は一定の要件に該当する発電事業を行う会社というのは,東京電力のような旧9電力会社が該当(実際はそれ以外の会社もあります)し,これらの会社は会社の規模が大きいので,電気主任技術者の権限や組織上の位置付けが会社の中で弱くならないよう明確にしておく必要がある,ということだと思います。
解答
(1)ハ (2)カ (3)ト (4)ヌ (5)ホ