R4年度 第2種 電力

電験二種 令和4年度 電力 問1『水素冷却発電機に関する問題』

問題

次の文章は,水素冷却発電機に関する記述である。文中の\fbox{  }に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。
大容量タービン発電機の冷却方式には,冷却媒体に水素ガスを用いる水素冷却が多く採用されている。
水素冷却発電機は,空気冷却発電機に対して次の特徴がある。
① \fbox{(1)} が減少することで,発電機効率が向上する。
② 水素は\fbox{(2)} が大きいので,冷却効果が向上する
③ 水素は空気より絶縁物に対して不活性であり,\fbox{(3)} が高いために,絶縁
物の劣化が少ない。
一方,水素と空気の混合ガスは引火,爆発の危険があるので,これを防ぐため水素純度を\fbox{(4)} 以上に維持すること,固定子枠を耐爆構造としなければならないこと,軸貫通部の水素漏れを防止するために軸受の内側に\fbox{(5)} 制御装置を設ける必要があることなど,取り扱いも慎重にしなければならない。

〔問1の解答群〕
(イ)85%     (ロ)コロナ発生電圧 (ハ)風損
(ニ)電圧変動率  (ホ)銅損      (ヘ)75%
(ト)ガス     (チ)熱伝導率    (リ)潜熱
(ヌ)90%     (ル)冷却水     (ヲ)鉄損
(ワ)絶縁抵抗   (カ)密封油     (ヨ)膨張率

 

解説

火力発電所や原子力発電所等で使用される大容量タービン発電機では,発電機のコイルに流れる電流も大きくなるため,コイルの抵抗損による発熱も大きくなります。この熱を空気で冷却すると,冷却の効率が悪いため,冷却効果の高い水素ガスが使用されることが多くなっています。

水素ガスを使用することによるメリットは他にもありますが,水素は空気と混合すると爆発の危険性があるため,その管理も重要になっています。

(1)

水素ガスを使用することのメリットとして,発電機の効率が上がるというのがあります。

発電機の冷却のためには,発電機の固定子コイルの周辺に冷媒となる気体を通風する必要がありますが,固定子コイル近くには発電機の励磁用の回転子コイルがあるため,その気体は回転子コイルが回転している空間を通過することになります。

このとき,気体と回転子コイルとの摩擦による損失が発生しますが,この損失は風損と呼ばれています。風損は,気体と回転子コイルとの摩擦を小さくする,すなわち気体の密度を小さくすれば,減らすことが可能になります。

空気の密度と水素ガスの密度を同じ気体条件で比較した場合,空気の密度が1.293kg/m3であるのに対して,水素の密度は0.0899 kg/m3と非常に小さくなっています。

したがって,発電機の冷媒に水素ガスを使用することで風損を小さくすることができ,その結果発電機の効率が向上します。

答えは(ハ)となります。

 

(2)

水素ガスを使用することにより冷却効果が高まりますが,その理由はコイルで発生した熱が水素ガスに伝わりやすい,すなわち,水素ガスの熱伝導率が大きいからです。

空気と水素ガスの熱伝導率を0℃のときの値で比較すると,空気が0.0241 W/m•K,水素ガスが0.1675 W/m•Kとなっており,水素の冷却効果が高いことが分かります。

答えは(チ)となります。

 

(3)

発電機内部にある絶縁物の劣化の要因は,絶縁物の周囲の温度や湿度,絶縁物に加わる振動,衝撃,絶縁物に対して発生する放電などがあります。

③に記載されている説明の前半部分の「水素は空気より絶縁物に対して不活性であり」というのは,水素が絶縁物に与える化学的な変化があまりないため,絶縁物の劣化が少ないという理由の説明と思われます。

後半部分は,水素の何かが高いから絶縁物の劣化が少ないという説明ですが,この何かにあてはまる言葉を選択子の中から探した場合,水素の性質を表す用語としてまずは,

「コロナ発生電圧」,「熱伝導率」,「潜熱」,「絶縁抵抗」,「膨張率」

あたりが考えられます。

「コロナ発生電圧」とは,気体が絶縁状態を保てなくなり,放電が始まる電圧のことですが,水素のコロナ発生電圧は空気のコロナ発生電圧よりも高いため,絶縁物に対して放電が発生しにくく,絶縁物の劣化が少なくなります。したがって,(3)に入る言葉として「コロナ発生電圧」が正解になります。

「熱伝導率」は冷却に関する言葉であり,すでに(2)で説明済みなので除外されます。

「潜熱」とは,個体,液体,気体と変化するときに,吸収,放出する熱エネルギーのことであり,今回の問題の選択子にはふさわしくありません。

「絶縁抵抗」は個体の絶縁性能を表す際に使われる言葉であると思われますので,この選択子もふさわしくありません。

「膨張率」は温度上昇により気体の体積が膨張する割合ですが,発電機の冷却に使われる気体が温度により膨張しても,気体の体積変化は適切に管理されていると考えると,この選択子もふさわしくありません。

以上より答えは(ロ)となります。

 

(4)

水素は空気中において,4%から75%の範囲の濃度にあるとき,着火源があると爆発します。したがって,水素純度が75%以上であれば,爆発は生じないのですが,通常の発電機の運用において75%以上にすることを運用の基準にすると,何かあった場合にすぐに75%以下となってしまい危険です。このため,通常の運用ではもっと高い純度を運用の基準としています。

解答の選択子では,75%と90%がありますが,この場合は90%が正解となり,答えは(ヌ)です。

なお,電気設備の技術基準の解釈の第41条(令和4年11月30日改正時点の条文)において,発電機内の水素の純度が85%以下に低下した場合は,このことを警報する装置を設けるように定められています。

 

(5)

水素が最も漏れる可能性が高い箇所は,発電機の軸が貫通している部分です。この箇所からの水素漏れを防止するため,軸を支える軸受部には油膜による密封油装置を設けています。密封油装置は,発電機内の水素ガスの圧力よりも高い圧力で油を軸受部に供給しています。

したがって,答えは(カ)です。

 

解答

(1)ハ (2)チ (3)ロ (4)ヌ (5)カ

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