R4年度 第2種 機械

電験二種 令和4年度 機械 問1『三相同期発電機の並行運転に関する問題』

問題

次の文章は,三相同期発電機の並行運転に関する記述である。文中の\fbox{  }に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。
仕様及び特性が等しい 2 台の三相同期発電機 SG1 及び SG2 を並列接続し,共通の負荷に電力を供給することを考える。速度出力特性がともに等しい垂下特性をもつ原動機で入力を等しく一定として並行運転している場合,両機の間には横流と呼ばれる循環電流は流れない。このとき,各発電機の誘導起電力の大きさ,周波数が等しく,各発電機の誘導起電力の\fbox{(1)} がほぼ一致している。この運転状態からSG1 の界磁電流を\fbox{(2)} すると,両機の誘導起電力に差が生じ,これによって両機の間に循環電流が流れる。この電流はSG1の誘導起電力に対しては遅れ,SG2に対しては進みの\fbox{(3)} 電流であり,電機子反作用によってそれぞれの磁束に作用して,両機の端子電圧が界磁電流の調整前と比べて\fbox{(4)} 電圧で平衡を保つよう に働く。
また,先の並行運転状態において,何らかの原因で一方の発電機の回転速度が一時的に変化し,両機の速度差により誘導起電力の間にわずかな位相差が生じて循環電流が流れたとする。この場合の循環電流は,両機の間で有効電力の授受を行って自動的に両機を同一位相に保つように働く。この場合の循環電流を\fbox{(5)} 電流と いう。

〔問1の解答群〕
(イ)消費     (ロ)増加     (ハ)有効
(ニ)減少     (ホ)無効     (ヘ)力率角
(ト)高い     (チ)負荷角    (リ)低い
(ヌ)制限     (ル)同じ     (ヲ)位相
(ワ)制御     (カ)同期化    (ヨ)共振

 

解説

三相同期発電機を2台で並行運転し,共通の負荷に電力を供給している状態を1相分の等価回路で示すと以下の図のようになります。

この図で, \dot{E_1} \dot{E_2} は発電機SG1と発電機SG2の誘導起電力で, jX は同期リアクタンス, \dot{I_1} \dot{I_2} は各発電機に流れる電流, \dot{I_c} は両機間に流れる電流, \dot{V} は両発電機の端子電圧です。

この図より, \dot{I_c} を求めると,

\dot{E_1} - \dot{E_2} = j2X \dot{I_c}
\dot{I_c} = \dfrac{\dot{E_1} - \dot{E_2}}{j2X} = -j \dfrac{\dot{E_1} - \dot{E_2}}{2X} ・・・①

となります。

この式から分かるように,両発電機の誘導起電力に差が生じると,両機の間に循環電流が流れます。この循環電流のことを横流(おうりゅう)と呼んでいます。

(1)

両機の誘導起電力のベクトルが等しければ,横流は流れません。ベクトルが等しいとは,ベクトルの大きさと向きが等しいということですので,誘導起電力で考えると,誘導起電力の大きさが等しく,誘導起電力の位相差が無いということになります。

したがって,(1)の答えは「(ヲ)位相」になります。

 

(2)

発電機の界磁電流の大きさを変えると,誘導起電力の大きさが変わります。この問題の場合,発電機SG1の誘導起電力の大きさが変わるため,両機の誘導起電力に差が生じ,その結果,循環電流(横流)が流れます。

回答の選択肢に「変化」というのはなく,選択肢で候補となるのは,「(ロ)増加」か「(ニ)減少」のどちらかになりそうでが,どちらを選択するかは,問題文の先に書いてある,この循環電流が「SG1の誘導起電力に対しては遅れ,SG2に対しては進み」という記載から判断する必要があります。

つまり,循環電流がSG1の誘導起電力に対しては遅れ,SG2に対しては進みとなるためには,SG1の誘導起電力を大きくすればそうなるのか,小さくすればそうなるのかを考えれば,答えが得られます。そこで,仮にSG1の界磁電流の大きさを増加させた場合について,まずは考えてみます。

誘導起電力と循環電流の位相関係は式①から分かりますが,先にそれをベクトル図で描くと以下のようになります。

\dot{E_1} は,界磁電流の大きさが大きくなったことで,大きさが \dot{E_2} よりも大きくなり, \dot{E_1} - \dot{E_2} という誘導起電力の差が生じています。

式①を見ると, \dot{E_1} - \dot{E_2} -j がかかっています。jをかけるというのは,ベクトルの位相を反時計周りに90°回転させる操作をするということであり,jには-がかかっているため,その90°回転したベクトルをさらに反転させる必要があります。 \dot{E_1} - \dot{E_2} にこの操作を行うと,上図のとおり, \dot{I_c} \dot{E_1} - \dot{E_2} よりも90°遅れの位相となります。

ここで,両機の誘導起電力と循環電流の位相関係を確認します。

\dot{E_1} \dot{I_c} との位相関係は,図のとおり \dot{I_c} \dot{E_1} よりも90°遅れの位相となっています。

\dot{E_2} については,等価回路で示されている電圧と電流の向きが, \dot{E_1} の電圧と電流の向きの関係とは逆になっています。このため, \dot{E_2} \dot{I_c} の位相関係を考える場合は, \dot{I_c} ベクトルを反転させて考える必要があります。したがって, \dot{I_c} \dot{E_2} に対しては90°進みの位相となります。

仮でSG1の界磁電流の大きさを増加させた場合について考えましたが,結果的にこの場合が問題文に記載されている通り,循環電流がSG1の誘導起電力に対しては遅れ,SG2に対しては進みとなりました。

したがって,(2)の答えは「(ロ)増加」となります。

 

(3)

問題(2)で \dot{I_c} \dot{E_1} \dot{I_c} \dot{E_2} の位相関係は,それぞれ90°遅れ,90°進みであることを確認しましたが,電圧に対して,90°遅れ,進みの電流は,無効電流と呼ばれています。

したがって,(3)の答えは,「(ホ)無効」となります。

 

(4)

発電機の誘導起電力は,発電機回転子の磁束によって発生しています。一方で,発電機の固定子(電機子回路)に電流が流れると,その電流により発電機内部に磁束が発生します。この磁束が発電機回転子の磁束に影響を与えるため,発電機の誘導起電力の大きさも影響を受けます。このように,電機子に流れる電流によって生じる磁束が,発電機回転子の磁束に影響を与えることにより発生する現象のことを,電機子反作用と言います。

発電機に流れる電流は,負荷に応じて誘導起電力との位相が変わります。このため,電機子反作用もこの位相関係により影響が異なります。詳細は省略しますが,発電機に流れる電流が誘導起電力に対して90°遅れの場合,この電流により生じる磁束は,発電機回転子の磁束を弱める方向となり,誘導起電力の大きさが小さくなります。逆に90°進みの場合には,発電機回転子の磁束を強める方向に磁束が生じ,誘導起電力の大きさは大きくなります

問題の場合では,SG1とSG2の間に流れる横流により,SG1には90°遅れの電流が流れています。この電流は誘導起電力が小さくなるように作用するため,SG1の誘導起電力の大きさは,界磁電流を増加させる前の電圧の大きさに向かって小さくなっていきます。

一方,SG2にはSG2の誘導起電力に対して90°進みの電流が流れており,この電流は誘導起電力が大きくなるように作用するため,SG2の誘導起電力は元の大きさよりも大きくなっていきます。

SG1の誘導起電力はだんだん小さくなり,SG2の誘導起電力はだんだん大きくなりますが,両機の誘導起電力の大きさが同じになるところで横流は流れなくなるため,両機の誘導起電力の大きさはSG1の界磁電流を変化させる前の誘導起電力よりも高い電圧で平衡を保つことになります。

したがって,解答は「(ト)高い」となります。

 

(5)

両機の誘導起電力の大きさが同じであっても,位相が変われば,下図のように両機の誘導起電力には差が生じます。

この場合も両機の間には式①のとおり,循環電流が流れます。

誘導起電力の差 \dot{E_1} - \dot{E_2} と循環電流 \dot{I_c} との位相関係は,問題(2)で説明したとおり,式①から, \dot{E_1} - \dot{E_2} を反時計回りに回転したものをさらに反転させた位相であるため,上図のとおりの位相関係になっています。

上図のベクトル図から,循環電流 \dot{I_c} は有効分方向のベクトルとなっており,この場合の循環電流は「同期化電流」と呼ばれています。

同期化電流が有効分のベクトルであることから,同期化電流が流れると発電機の出力に影響が出ます。発電機SG1の出力変化を P_1 ,発電機SG2の出力変化を P_2 として,それぞれどうなるか求めます。

それぞれの発電機の誘導起電力の大きさは同じであるため,その大きさを E とします。 P_1 をベクトル図から求めると,

P_1 = 3 E I_c cos(\dfrac{\delta}{2})

となります。同様に P_2 を求めますが,電流の方向がSG1とは逆方向であることに注意すると,

P_2 = 3 E I_c cos(\pi - \dfrac{\delta}{2}) = - 3 E I_c cos(\dfrac{\delta}{2}) = -P_1

となり,発電機SG1で増えた出力と同じ大きさの出力が減少することになります。

同期化電流により出力が増えても,発電機の原動機の入力は変わらないため,発電機の回転速度が遅くなるように作用し,反対に同期化電流により出力が減ると,発電機の回転速度が速くなるように作用します。この結果,両機の誘導起電力の位相差が同じになる方向に向かいます。

解答は「(カ)同期化」となります。

 

解答

(1)ヲ (2)ロ (3)ホ (4)ト (5)カ

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