第3種 電力 R2年度

電験三種 令和2年度 電力 問1『水力発電所における水撃作用とサージタンク関する問題』

問題

ダム水路式発電所における水撃作用とサージタンクに関する記述として,誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1)発電機の負荷を急激に遮断又は急激に増やした場合は,それに応動して水車の使用水量が急激に変化し,流速が減少又は増加するため,水圧管内の圧力の急上昇又は急降下が起こる。このような圧力の変動を水撃作用という。
(2)水撃作用は,水圧菅の長さが長いほど,水車案内羽根あるいは入口弁の閉鎖時間が短いほど,いずれも大きくなる。
(3)水撃作用の発生による影響を緩和する目的で設置される水圧調整用水槽をサージタンクという。サージタンクにはその構造・動作によって,差動式,小孔式,水室式などがあり,いずれも密閉構造である。
(4)圧力水路と水圧菅との接続箇所に,サージタンクを設けることにより,水槽内部の水位の昇降によって,水撃作用を軽減することができる。
(5)差動式サージタンクは,負荷遮断時の圧力増加エネルギーをライザ(上昇菅)内の水面上昇によってすばやく吸収し,そのあとで小穴を通してタンク内の水位をゆっくり通常のタンク内水位に戻す作用がある。

 

解説

ダム水路式の水力発電所では,ダムから発電所内の水車に水を送るために鉄管(水圧管)が使用されています。この鉄管の中を流れる水の量は膨大な量であるため,水車の入口に設置された水量を調整するための弁(水車案内羽根あるいは入口弁)を急激に閉めると,今まで流れていた水が急にせき止められるために,鉄管の内部では行き場を失った水による急激な圧力上昇が生じます。反対に水車入り口の弁を急激に開けると,今まで静止していた水が急激に流れ,勢いよく鉄管を抜け出ることにより,鉄管の内部の圧力が急激に低下します。このような鉄管内部の圧力の変動を水撃作用と呼んでいます。

(1)

先ほど述べたとおり水撃作用とは,水圧管内を流れる水の流れを急激に変化させたときに生じる,水圧管内での圧力の変動のことですので,この記述は正しいです。

(2)

水圧管の長さが長くなると,その内部の水量が多くなるため,水撃作用は大きくなります。また,水量の変化が急激であればあるほど,水撃作用は大きくなるため,水車案内羽根あるいは入口弁の閉鎖時間を短くすると,水撃作用は大きくなります。したがってこの記述は正しいです。

(3)

この記述のとおり,水撃作用による影響を緩和する目的で設置される水圧調整用の水槽をサージタンクと呼びますが,サージタンクが密閉されているとタンク内への水の流入が抑制され,またタンク内部の圧力も上昇してしまうため,サージタンクは密閉されておらず,大気に開放されています。したがってこの記述は誤りです。

(4)

圧力水路は,ダムの取水口から水圧管までの間を接続する水路のことですが,サージタンクはこの圧力水路の途中または末端に設けられます。サージタンク内の水の水位をある程度に保っておくと,水圧管内で圧力の上昇が生じたときはタンクの内部に水が流入することにより,圧力の上昇を緩やかにし,水圧管内で圧力の降下が生じたときはタンク内の水が水圧管内に流入することで,圧力の降下を緩やかにすることができます。したがってこの記述は正しいです。

(5)

サージタンクにはいくつか種類があり,最も簡単なものは「単動サージタンク」と呼ばれる,タンクと水路を直結したものです。単動サージタンクは比較的大きな容量が必要となるため,タンクの大きさを小さくして建設費を低減するために工夫したものの一つが「差動サージタンク」です。

 

差動サージタンクは,上図のように,タンクの内部に「ライザ」と呼ばれる管を設け,タンクのライザを除いた部分にはタンク径よりも小さい径の孔(「制水孔」あるいは「ポート」と呼ばれる)を通して水路から水が入るようにした構造になっています。ライザは水路断面積と同程度の径で水路と接続されています。
ライザを除いた部分のタンクに水が出入りするためには,制水孔を経由する必要がありますが,水が制水孔を出入りするときに抵抗が生じるため,タンク内の水位の変化はライザ内の水位変化と比べると緩慢になります。
ライザ内の水位がタンク内の水位より高い場合は,ライザ内の水位に合うように,タンク内には制水孔を通して水が入りこみ,反対にライザ内の水位がタンク内の水位よりも低い場合は,タンク内の水が制水孔を通して水路内に供給され,ライザ内の水位に合うように動作します。このような一連の動作により,水圧の振動が吸収されていきます。
したがって問題文の記述は正しいです。

 

解答

(3)
 

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