第3種 電力 R2年度

電験三種 令和2年度 電力 問11『地中送電線路に関する問題』

問題

我が国における架空送電線路と比較した地中送電線路の特徴に関する記述として,誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1)地中送電線路は,同じ送電容量の架空送電線路と比較して建設費が高いが,都市部においては保安や景観などの点から地中送電線路が採用される傾向にある。
(2)地中送電線路は,架空送電線路と比較して気象現象に起因した事故が少なく,近傍の通信線に与える静電誘導,電磁誘導の影響も少ない。
(3)地中送電線路は,同じ送電電圧の架空送電線路と比較して,作用インダクタンスは小さく,作用静電容量が大きいため,充電電流が大きくなる。
(4)地中送電線路の電力損失では,誘電体損とシース損を考慮するが,コロナ損は考慮しない。一方,架空送電線路の電力損失では,コロナ損を考慮するが,誘電体損とシース損は考慮しない。
(5)絶縁破壊事故が発生した場合,架空送電線路では自然に絶縁回復することは稀であるが,地中送電線路では自然に絶縁回復して再送電できる場合が多い。

 

解説

(1)

一般的な説明としては,同じ送電容量の地中送電線路と架空送電線路の建設費を比較した場合,地中送電線路の方が建設費が高くなります。
地中送電線路の場合は,台風などの影響を受けることがなく,保安上も有利となり,またケーブルが地面の下に埋まっていて見えなくなるので,景観上も良くなります。
したがってこの記述は正しいです。

 

(2)

地中送電線路は地面の下に埋まっているため,台風などの強風による線路の断線はなく,雷が直接落ちることもないため,気象現象に起因した事故は少なくなります。
地中送電線にはケーブルが使用され,ケーブルの被覆の下側には銅などで出来た遮蔽層があることにより電界が外に漏れず,近傍の通信線に与える静電誘導の影響は少なくなります。遮蔽層があっても磁界は外に漏れますが,地中送電線の場合は各相のケーブルが近くに布設されることが多く,各相からの磁界が打ち消しあうために,地中送電線からの磁界は小さくなる傾向があります。このため,近傍の通信線に与える電磁誘導の影響も少なくなります。
したがってこの記述は正しいです。

 

(3)

この記述は正しいです。その理由は以下のとおりですが,結果だけ覚えておくだけでもよいかと思います。

架空線の作用インダクタンスは,問10でも解説したとおり,各相の電線間の等価距離D(各相の電線間距離の積の3乗根。電線間距離の平均値のようなイメージ。)と電線の半径rにより決まります。その値は結果だけ示すと,以下の式で求まります。

0.4605 \log_{10} \dfrac{D}{r} + 0.05 [mH/km]

ケーブルの作用インダクタンスについても,ケーブルの遮蔽層を両端で接地していない場合は,その値を上記と同じ式で求めることができます。

作用インダクタンスはDとrの値により決まりますが,架空線,ケーブルでそれぞれD,rがどのようになるかを確認すれば,作用インダクタンスの大小も分かります。

架空線では電線に裸電線を使用する場合が多いため,一般的には各相の電線間距離,すなわちDは大きくなります。ケーブルの場合は,ケーブルが絶縁体で覆われているため,各相間の距離が近くであっても問題がなく,一般的には各相のケーブル間の距離が近い状態で布設されます。すなわち,各相の電線間距離Dが架空線の方がケーブルの場合よりも大きいため,作用インダクタンスを求める式の項 \log_{10} \dfrac{D}{r} の値は,架空線の方がケーブルよりも大きくなり,作用インダクタンスの大きさも架空線の方が大きくなります。

なお,ケーブルの遮蔽層を両端で接地する場合,遮蔽層にはケーブルの導体により生じた磁界を打ち消す方向に循環電流が流れるため,ケーブルの外部に発生する磁界が小さくなり,その結果作用インダクタンスの値も小さくなります。

架空線の作用静電容量は,問10の解説でご説明したとおり,ある1相の中性点に対する静電容量であり,各相間の静電容量,大地に対する静電容量の和の形で表されますが,大地からの距離が電線の太さに比べて大きいという条件を使うと,結果的には以下の式のとおり,電線間の等価距離Dと電線半径rのみで値が求まります。

C_w = \dfrac{0.02413}{\log_{10} \dfrac{D}{r}} [μF/km]

ケーブルの作用静電容量も同様に,各相間の静電容量,大地に対する静電容量の和の形で表されますが,ケーブルは通常各相毎に遮蔽層で遮蔽されているため,相間の静電容量は存在せず,大地に対する静電容量がそのまま作用静電容量となります。

ケーブルの導体と遮蔽層との間にある絶縁体の比誘電率を\varepsilon_s,ケーブル導体の半径をr,ケーブルの絶縁体の半径をDとし,遮蔽層が接地されているとすると,ケーブルの大地に対する静電容量,すなわち作用静電容量Cは,結果だけ示すと以下の式で求めることができます。

C = \dfrac{0.02413 \varepsilon_s}{\log_{10} \dfrac{D}{r}} [μF/km]

この式は架空線の作用静電容量の大きさを求める式と同じような形をしていますが,架空線の作用静電容量を求める式において,Dは電線間の等価距離,rは電線半径であるため,その比D/rの値が大きく,ケーブルの場合は,Dはケーブルの絶縁体の半径,rはケーブルの導体の半径であるため,その比D/rが小さくなります。

すなわち,作用静電容量を求める式の \log_{10} \dfrac{D}{r} の項の値は,ケーブルの場合の方が小さく,作用静電容量はその値の逆数に比例するため,ケーブルの作用静電容量は架空線の作用静電容量よりも大きくなります。

さらにケーブルの作用静電容量を求める式は,絶縁体の比誘電率が係数として係っているため,その倍数だけ大きくなります。

 

(4)

地中送電線に用いられるケーブルは,導体の周りにある絶縁層で絶縁を確保しています。この絶縁層には交流の電圧が印可されることになりますが,絶縁体の内部では,絶縁体を構成する分子内の電子や原子が交流電界に従って振動し,その振動による熱エネルギーが発生します。この熱エネルギーは損失となりますが,この損失のことを誘電体損といいます。

下図はケーブルを長さ方向に切った断面の模式図ですが,ケーブルの導体に電流が流れると,下図の緑色の線で示すように磁界が発生します。この磁界の一部(φin)がケーブルの遮蔽層(銅などの導体で出来ている)を貫くことで渦電流が流れますが,この電流による損失を渦電流損といいます。
また,遮蔽層がケーブルの両端で接地されている場合は,ケーブルの外側に生じる磁界(φout)により,接地線を介して遮蔽層と大地を循環する電流が流れます。この循環電流はシース電流と呼ばれており,この電流による損失をシース回路損といいます。
渦電流損とシース回路損を合わせて,シース損と呼んでいます。地中送電線の場合には,誘電体損とシース損を考慮する必要があります。
なお,下図の遮蔽層は渦電流が見えるように誇張して記載していますが,実際の厚みはシートの厚さ程度です。

 

一方,架空送電線の場合は被覆されていない裸電線が使われることが多く,ケーブルのような誘電体損やシース損は考慮しません。
架空送電線では,コロナが発生することによるコロナ損を考慮する必要があります。

したがってこの記述は正しいです。

 

(5)

架空送電線路は,一般には空気で絶縁されているため,雷撃などにより絶縁が破壊された場合であっても,自然に絶縁が回復します。
地中送電線路は,絶縁体で絶縁を確保しているため,絶縁体で絶縁破壊が生じるというのは,絶縁体が破壊されたということになるため,絶縁は自然には回復しません。
したがってこの記述は誤りです。

 

解答

(5)

 

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