問題
我が国のコンデンサ，電力ケーブル，変圧器などの電力用設備に使用される絶縁油に関する記述として，誤っているものを次の（1）〜（5）のうちから一つ選べ。
（1）絶縁油の誘電正接は，変圧器，電力ケーブルに使用する場合には小さいものが，コンデンサに使用する場合には大きいものが適している。
（2）絶縁油には，一般に熱膨張率，粘度が小さく，比熱，熱伝導率が大きいものが適している。
（3）電力用設備の絶縁油には，一般に古くから鉱油系絶縁油が使用されているが，難燃性や抵損失特性など，より優れた特性が要求される場合には合成絶縁油が採用されている。また，環境への配慮から植物性絶縁油の採用も進められている。
（4）絶縁油は，電力用設備内を絶縁するために使用される以外に，絶縁油の流動性を利用して電力用設備内で生じた熱を外部へ放散するために使用される場合がある。
（5）絶縁油では，不純物や水分などが含まれることにより絶縁性能が大きく影響を受け，部分放電の発生によって分解ガスが生じる場合がある。このため，電力用設備から採油した絶縁油の水分量測定やガス分析等を行うことにより，絶縁油の劣化状態や電力用設備の異常を検知することができる。
解説
（1）
誘電正接とは，誘電体に交流の電界が加わった時に生じる，熱エネルギーの度合いを表す数値です。電力用機器で絶縁のために使用される絶縁油も誘電体ですが，誘電体内で熱エネルギーとして消費されるエネルギーは損失となるため，どのような機器であってもこの損失は小さい方が，効率のよい機器となります。
したがってこの記述は誤りです。
（2）
記載のとおり正しいです。
絶縁油は絶縁媒体としての他，変圧器から発生する熱を外部に放熱するための媒体としての用途もあります。このため，比熱，熱伝導率が大きい方が熱を外部に伝えやすく，また粘度が小さいほど油の流動性が良く，変圧器内部での油の対流が良くなるため，熱を外部へ効率的に放熱することが可能となります。
熱膨張率が小さい方が，絶縁油の温度変化による絶縁油の体積の変化が小さくなるため，そのための対策も少なくて済みます。
（3）
記載のとおり正しいです。
合成絶縁油とは，絶縁油の主成分に合成化合物を用いたものであり，天然の鉱油（石油系原油を分留精製して得られたもの）に比べて化学的に安定な絶縁油です。合成絶縁油を用いた変圧器にはシリコーン油が用いられています。
鉱油は空気中で加熱されると酸化劣化しやすく，また引火点が低いため燃えやすいなどの欠点がありますが，合成絶縁油は化学的に安定であるため，これらの欠点が改良されています。
また，最近は菜種油を原料とした植物性絶縁油を使った変圧器もあります。
（4）
記載のとおり正しいです。（2）で記載した内容のとおりです。
（5）
記載のとおり正しいです。
絶縁油に不純物や水分が含まれると，絶縁性能が無い（あるいは低い）物質が絶縁油に含まれることになるため，絶縁性能に影響が出ます。
変圧器の内部で局部的な加熱や，アーク放電，部分放電が生じると，絶縁油に熱分解が起きます。このとき絶縁油の内部で分解ガスが発生し，大部分が絶縁油の中に溶解します。発生するガスの種類は，内部で生じた現象により異なるため，絶縁油中に含まれるガスの分析を行うことで，絶縁油の劣化状態や内部で発生した異常を検知することができます。
解答
（1）
