問題
架空送電線路に関連する設備に関する記述として,誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1)電線に一様な微風が吹くと,電線の背後に空気の渦が生じて電線が上下に振動するサブスパン振動が発生する。振動するエネルギーを吸収するダンパを電線に取り付けることで,この振動による電線の断線防止が図られている。
(2)超高圧の架空送電線では,スペーサを用いた多導体化により,コロナ放電の抑制が図られている。スペーサはギャロッピングの防止にも効果的である。
(3)架空送電線を鉄塔などに固定する絶縁体としてがいしが用いられている。アークホーンをがいしと併設することで,雷撃等をきっかけに発生するアーク放電からがいしを保護することができる。
(4)架空送電への雷撃を防止するために架空地線が設けられており,遮へい角が小さいほど雷撃防止の効果が大きい。
(5)鉄塔又は架空地線に直撃雷があると,鉄塔から送電線へ逆フラッシオーバが起こることがある。埋設地線等により鉄塔の接地抵抗を小さくすることで,逆フラッシオーバの抑制が図られている。
解説
(1)
架空送電線では,送電線で送ることのできる電力を大きくすること等の目的のために,送電線の1相あたりの電線の本数を2本以上にすることがあり,これを多導体といいます。1相あたりの電線本数が多くなるため,各電線が接触しないように,スペーサーと呼ばれる資材を使って,各電線間の距離が一定になるように電線を保持しています。(ネットで「多導体 スペーサー」と検索すると色々な写真が出てきます。)
スペーサーは,鉄塔付近の電線ではおおよそ10〜15m間隔で設置され,電線中央付近ではおおよそ60〜80m間隔で設置されることが多いようです。このスペーサー間の間隔をサブスパンと呼びます。
電線に比較的強い風(だいたい風速10m/sを越えるような風)が当たると,このサブスパンの電線が振動するようになりこの現象をサブスパン振動と呼んでいます。
問題文に記載されている「電線に一様な微風が吹くと,電線の背後に空気の渦が生じて電線が上下に振動する」現象は,微風振動と呼ばれる現象です。微風振動は緩やかな風(だいたい風速5m/s以下)で発生する現象です。
微風振動、サブスパン振動共に、風が当たることで電線の固有振動数に相当する振動が発生するという,振動の発生原理に違いはないため、問題文の記載は正しいように思えてしまいますが,一般的にサブスパン振動は風が弱いときは発生しにくいという点で,(1)の記載は誤りと考えてよいかと思います。
(2)
スペーサーについては,先ほども説明したとおり,多導体の送電線で各電線が接触しないようにするための資材です。多導体とすることのメリットの一つとして,問題文に記載されているように,コロナ放電の抑制を図ることができるというのがあります。
コロナ放電とは電線の表面から放電が始まる現象のことです。裸電線(電線の表面をビニールなどの絶縁物で覆っていない電線)を使用した架空電線では,電線の絶縁は空気により保たれています。標準の気象状態(気温20℃,気圧1,013hPa)における空気の絶縁耐力は直流で30kV/cm(交流では実効値表現で\frac{30}{\sqrt{2}}=21kV/cm)であり,電線周囲の電位の傾き(電場の強さ)がこの値を超えるとコロナ放電が始まります。
電線の半径が小さくなると電線周囲の電場の強さが強くなる(電線半径が小さくなると,電線に入る電気力線の密度(=電場の強さ)も高くなる)ため,コロナ放電が発生しやすくなります。
多導体とすると,電線1本の太さは小さくなりますが,同じ電位の電線がすぐ近くにあるため,電線間の電位差が小さく,電場も強くありません。電場の強さが強くなるのは,多導体を塊として見た場合のその外側であり,結果的に電線の半径を大きくしたような効果が得られます。電線の半径が大きいほど電線周囲の電場の強さが弱くなるため,コロナ放電の抑制を図ることができます。
ギャロッピングとは,送電線に付着した雪や氷が,送電線に吹き付ける風が一定の方向から吹き続けるなどにより,翼のような形になり,飛行機の羽根のように揚力が発生して,送電線が上下に振動する現象のことです。
多導体のスペーサーで電線を固定していると,電線が回転しにくくなることで雪や氷が付着しやすくなり,ギャロッピングが発生しやくなります。そこでスペーサーで電線を保持する箇所の一部を緩くして,電線が回転できるようにして雪や氷が付着しにくくなるようにした,ルーズスペーサーが用いられることがあります。ルーズスペーサーを用いるとギャロッピングの発生防止に効果があります。
多導体で通常のスペーサーを用いるとギャロッピングが発生しやすくなるため,ルーズスペーサーが開発されたということを考えると,スペーサーそのものでギャロッピングの発生防止に効果があるとは言えない気もします。
(3)
架空送電を鉄塔に固定するために,がいしが用いられています。アークホーンとは,がいし連の両端に取り付けられた針状(円形状のものもある)の金具のことです。(ネットで「アークホーン」と検索すると多くの写真が出てきます)
がいしは電線と鉄塔との間の絶縁物として,常時は絶縁が保たれています。しかしながら,雷撃などのがいしの絶縁耐力を上回る一時的に大きな電圧が生じると,電線と鉄塔との間にアークが生じ地絡が発生します。このアークはがいしにアークホーンがついていない場合,がいしの表面の近くで生じるため,アークの熱のためにがいしを損傷してしまうことがあります。アークホーンがついていると,アークが上下のアークホーンの間で生じ,アークをがいしから離すことができるため,がいしの損傷を防止することができます。
一般的に絶縁破壊が生じる箇所は,絶縁が最も弱い箇所(最も電流が通りやすい箇所)です。雷撃が生じたときも同様で,電線と鉄塔との間で最も電流が通りやすい箇所で生じます。多くの場合は電線と鉄塔を保持しているがいしのある箇所がもっとも距離が近いので,アークホーンがついていないと,がいしの表面付近でアークが発生します。アークホーンがついている場合は,上下のアークホーン間の距離の方ががいし連の長さよりも短く,この箇所がもっとも電流が通りやすくなるため,雷撃等が発生した場合はこの箇所でアークが生じるようになります。当然ながらアークホーン間の距離が近すぎると,アークホーン間の絶縁耐力ががいし連の絶縁耐力よりも小さくなってしまうため,アークホーン間の距離はがいし連の絶縁耐力を上回るように適切に保たれています。
したがって(3)の記載は正しいです。
(4)
架空地線とは,送電線の一番上に設けられた線のことで,鉄塔を通して大地と接地されて(大地につながっている)います。接地された線が送電線の上部にあることで,雷は送電線ではなく架空地線に落ちやすくなり,送電線への直撃雷を防止することができます。
架空地線の真下の送電線は雷から保護される確率が高いですが,送電線が架空地線から離れると,送電線が雷を受ける確率も高くなっていきます。遮へい角とは,架空地線の取付位置とその真下の地面を結ぶ線と,架空地線の取付位置と架線の取付位置を結ぶ線との間の角度(下図のθ)のことであり,雷撃の防止効果は遮蔽角が小さいほど大きくなります。
架空地線を設置する場合は,この遮蔽角が大きくなりすぎないようにしています。したがって(4)の記載は正しいです。
(5)
鉄塔や架空地線は大地と接続され接地されているために,それらに雷撃が生じると雷の電流は鉄塔を経由して大地に流れます。鉄塔には接地線(アース)を接続してそれを大地に埋めることで,雷の電流を大地に逃がすようにしていますが,接地線が適切に埋設されていないと,大地との間の抵抗(接地抵抗)が大きくなり,雷の大電流が流れるとその抵抗により大きな電圧が生じてしまいます。
接地線は鉄塔に接続されているため,その電圧は鉄塔全体に生じ,電圧の大きさによっては鉄塔と送電線との間で絶縁破壊が発生し,アークが生じることがあります。これを逆フラッシオーバと呼んでいます。
接地線を適切に埋設して接地抵抗を下げることで,雷撃時に生じる電圧が小さくなり,逆フラッシオーバを抑制することができます。したがって(5)の記載は正しいです。
以上より,(2)は完全に誤りとは言い切れないところがありますが,(1)は明らかに誤っていることから,解答は(1)になるかと思います。
解答
(1)