第3種 機械 R2年度

電験三種 令和2年度 機械 問17『ボード線図とブロック線図に関する問題』

問題

図は,ある周波数伝達関数W(j \omega)のボード線図の一部であり,折れ線近似でゲイン特性を示している。次の(a)及び(b)の問に答えよ。

(a)図のゲイン特性を示す周波数伝達関数として,最も適切なものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。

(1) \dfrac{40}{1+j \omega}   (2) \dfrac{40}{1+j0.005 \omega}   (3) \dfrac{100}{1+j \omega}

(4) \dfrac{100}{1+j0.005 \omega}   (5) \dfrac{100}{1+j0.5 \omega}

 

(b)図のゲイン特性を示すブロック線図として,最も適切なものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。ただし,入力をR(j \omega),出力をC(j \omega)として,図のゲイン特性を示しているものとする。

 

解説

(a)

問題のボード線図を見ると,角周波数が小さいときは,制御系のゲインが一定値となっており,ある角周波数からは,角周波数が10倍になると,ゲインが20dB減少する特性になっています。これは一次遅れ系のボード線図の特徴であり,問題の制御系は一次遅れであることが分かります。

一次遅れ系の周波数伝達関数の一般式をW(j \omega)\omegaは角周波数),比例定数をK,時定数をT[s]とすると,

W(j \omega) = \dfrac{K}{1 + j \omega T}

と表されます。

問題の選択肢も全てこの一次遅れの伝達関数の形をしており,それぞれ異なるのは,比例定数Kと時定数Tであることが分かります。

そこで,一次遅れ系の周波数伝達関数の一般式において,ゲインと比例定数との関係,角周波数と時定数との関係がどのようになっているのかをみてみます。

この制御系のゲインを g とすると, g

g = 20 log_{10} \left| \dfrac{K}{1 + j \omega T} \right|

g = 20 log_{10} \dfrac{K}{\sqrt{1 + (\omega T)^2}}

g = 20 log_{10} K - 20 log_{10} \sqrt{1 + (\omega T)^2}

となります。

この制御系のゲイン g が, \omega T \ll 1 のときと, \omega T \gg 1 のときでどうなるかどうなるか確認します。

\omega T \ll 1 のとき

この場合,ゲインの式において, \sqrt{1 + (\omega T)^2} \fallingdotseq 1 とみなせるため,

g = 20 log_{10} K - 20 log_{10} \sqrt{1 + (\omega T)^2}
\fallingdotseq 20 log_{10} K - 20 log_{10} 1
= 20 log_{10} K

となり,ゲインは比例定数をKだけで大きさが決まります。このゲインは定常ゲインとよばれています。

\omega T \gg 1 のとき

この場合,ゲインの式において, \sqrt{1 + (\omega T)^2} \fallingdotseq \omega T とみなせるため,

g = 20 log_{10} K - 20 log_{10} \sqrt{1 + (\omega T)^2}
\fallingdotseq 20 log_{10} K - 20 log_{10} \omega T

となります。

 

\omega T \ll 1 のときと, \omega T \gg 1 のときとで,ゲインは二つの近似直線で表現できることが分かりました。この二つの近似直線が交わるときの角周波数を求めてみます。

これは,二つの近似直線が等しいとおくことで得られ,

20 log_{10} K = 20 log_{10} K - 20 log_{10} \omega T
20 log_{10} \omega T = 0
log_{10} \omega T = 0
\omega T = 10^0 = 1

と求まります。この結果より,角周波数が時定数の逆数のときに,二つの近似直線が交わることが分かります。この角周波数のことを折点周波数とよんでいます。

 

さて,前置きが長くなりましたが,これで問題を解くための準備ができました。問題はこの制御系の周波数伝達関数を求めることですが,この制御系は一次遅れ系であるので,その一般式を改めて記載すると,

W(j \omega) = \dfrac{K}{1 + j \omega T}

となります。これを問題の選択肢と比較してみると,求める必要がある値は,比例定数Kと時定数Tであることが分かります。

比例定数をKは,ボード線図でゲインが一定となっている近似直線,すなわち定常ゲインから求め,時定数はボード線図上で二つの近似直線が交わる点,すなわち折点周波数から求めます。

定常ゲインの大きさは,ボード線図上でゲインが一定となっている近似直線をみると,40[dB]であるため,

20 log_{10} K = 40

となります。この式から,

20 log_{10} K = 40
log_{10} K = 2
K = 10^2 = 100

となり,Kの値は100となります。

折点周波数は,ボード線図上で二つの近似直線が交差する点であり,そのときの角周波数は2[rad/s]です。折点周波数では, \omega T = 1 の関係式が成り立つため,この式に \omega = 2 を代入すると,

2T = 1
T = 0.5

となり,時定数Tは0.5秒と求まりました。

したがって,この制御系の周波数伝達関数は,

W(j \omega) = \dfrac{K}{1 + j \omega T} = \dfrac{100}{1 + j0.5 \omega }

となり,解答は(5)になります。

 

(b)

問題(a)でこの制御系の伝達関数は,

W(j \omega) = \dfrac{100}{1 + j0.5 \omega }

と求まりましたが,これをブロック線図で書くと以下のとおりとなります。

問題の選択肢にあるブロック線図は,上図のように入力と出力が一つのブロックのみで結ばれてはおらず,ブロックの出力の一部が入力側に戻される,フィードバックループが含まれています。この問題を解くためには,この制御系のブロック線図の比較を行う必要がありますが,フィードバックループが含まれたままでは比較ができません。このため,フィードバックループを上図のような入力と出力が1対1で結ばれる形のブロック線図に変換する必要があります。

まずはフィードバックループが含まれた形のブロック線図を入力と出力が1対1に結ばれた形に変換する方法を説明します。

下図のようなフィードバックループを含む伝達関数があったとします。

このフィードバックループでは,出力C(j \omega)H(j \omega)をかけたものが入力側に戻されおり,その値が入力R(j \omega)との差として,G(j \omega)に入力されています。

これを式で書くと,

C(j \omega) = G(j \omega) \{ R(j \omega) - C(j \omega) H(j \omega) \}

となります。この式を出力 C(j \omega) と入力 R(j \omega) との関係式に変形すると,

C(j \omega) = G(j \omega) R(j \omega) - G(j \omega) C(j \omega) H(j \omega)
C(j \omega) + G(j \omega) C(j \omega) H(j \omega) = G(j \omega) R(j \omega)
C(j \omega) \{ 1 + G(j \omega)H(j \omega) \} = G(j \omega) R(j \omega)
C(j \omega) = \dfrac{G(j \omega)}{1 + G(j \omega)H(j \omega)} R(j \omega)

となり,フィードバックループのブロック線図は以下のように書き換えることができました。

これを使って,問題の選択肢のブロック線図を順に変換していきます。

(1)
G(j \omega) = \dfrac{1}{j \omega} H(j \omega) = 1 であるので,フィードバックループのブロック線図は,

\dfrac{G(j \omega)}{1 + G(j \omega)H(j \omega)} = \dfrac{\dfrac{1}{j \omega}}{1+\dfrac{1}{j \omega}} = \dfrac{1}{1+j \omega}

と変換できます。このブロックの出力に40の比例定数のブロックが接続されているので,入力と出力の関係は以下のとおりとなります。

C(j \omega) = \dfrac{1}{1+j \omega} 40 R(j \omega) = \dfrac{40}{1+j \omega} R(j \omega)

このブロック線図を問題(a)で求めたブロック線図と比較すると,伝達関数が異なっているため,これは解答ではありません。

 

(2)
このブロック線図のフィードバックループは(1)と同じで,最後のブロックの定数が異なるだけです。したがって,この選択肢のブロック線図は,

C(j \omega) = \dfrac{1}{1+j \omega} 100 R(j \omega) = \dfrac{100}{1+j \omega} R(j \omega)

となり,これも解答ではありません。

 

(3)
G(j \omega) = \dfrac{1}{j 0.005 \omega} H(j \omega) = 1 であるので,フィードバックループのブロック線図は,

\dfrac{G(j \omega)}{1 + G(j \omega)H(j \omega)} = \dfrac{\dfrac{1}{j 0.005 \omega}}{1+\dfrac{1}{j 0.005 \omega}} = \dfrac{1}{1+j 0.005 \omega}

と変換できます。このブロックの出力に100の比例定数のブロックが接続されているので,入力と出力の関係は以下のとおりとなります。

C(j \omega) = \dfrac{1}{1+j 0.005 \omega} 100 R(j \omega) = \dfrac{100}{1+j 0.005 \omega} R(j \omega)

これも解答ではありません。

 

(4)
G(j \omega) = \dfrac{1}{j \omega} H(j \omega) = 2 であるので,フィードバックループのブロック線図は,

\dfrac{G(j \omega)}{1 + G(j \omega)H(j \omega)} = \dfrac{\dfrac{1}{j \omega}}{1+\dfrac{1}{j \omega} 2} = \dfrac{1}{2+j \omega}

と変換できます。このブロックの出力に200の比例定数のブロックが接続されているので,入力と出力の関係は以下のとおりとなります。

C(j \omega) = \dfrac{1}{2+j \omega} 200 R(j \omega) = \dfrac{200}{2+j \omega} R(j \omega) = \dfrac{100}{1+j 0.5 \omega} R(j \omega)

この伝達関数は問題(a)で求めた伝達関数と同じ形となりました。したがって,解答は(4)になります。

 

(5)
もう答えは求まりましたが,ついでにこの選択肢のブロック線図も変換してみます。
選択肢(4)とは, H(j \omega) = 0.5 のブロックが異なるのみですので,(4)で求めた結果を使うと,

C(j \omega) = \dfrac{1}{0.5+j \omega} 200 R(j \omega) = \dfrac{200}{0.5+j \omega} R(j \omega) = \dfrac{400}{1+j 2 \omega} R(j \omega)

となります。

 

解答

(a)(5)
(b)(4)
 

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