問題
三相かご形誘導電動機の等価回路定数の測定に関する記述として,誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。 ただし,等価回路としては一次換算した一相分の簡易等価回路(L形等価回路)を対象とする。
(1)一次巻線の抵抗測定は静止状態において直流で行う。巻線抵抗値を換算するための基準巻線温度は絶縁材料の耐熱クラスによって定められており,75℃や115℃などの値が用いられる。
(2)一次巻線の抵抗測定では,電動機の一次巻線の各端子間で測定した抵抗値の平均値から,基準巻線温度における一次巻線の抵抗値を決められた数式を用いて計算する。
(3)無負荷試験では,電動機の一次巻線に定格周波数の定格一次電圧を印加して無負荷運転し,一次側において電圧[V],電流[A]及び電力[W]を測定する。
(4)拘束試験では,電動機の回転子を回転しないように拘束して,一次巻線に定格周波数の定格一次電圧を印加して通電し,一次側において電圧[V],電流[A]及び電力[W]を測定する。
(5)励磁回路のサセプタンスは無負荷試験により,一次二次の合成漏れリアクタンスと二次抵抗は拘束試験により求められる。
解説
(1)
かご形誘導電動機では,電源に接続される回路(固定子回路,一次巻線)と,回転する部分であるかご状の回路(回転子回路)とは物理的に接続されていません。このため,静止状態で一次巻線に直流を印可すると電流は一次巻線側にのみ流れ,その電流の大きさは一次巻線の抵抗の大きさで決まります。したがって,印可する直流電圧の大きさとその結果流れる電流の大きさにより,一次巻線の抵抗の大きさを測定することが可能です。
巻線の抵抗は温度によってその値が変わるため,ある基準の温度を決め,その温度における値とした方が便利であるため,基準巻線温度というものが決められています。
問題文に記載されているとおり,巻線に用いられる絶縁材料が耐えられる温度,すなわち耐熱クラスによって,基準巻線温度は異なっています。例えば,耐熱クラスA種の絶縁材料は90℃まで耐えられるため,基準巻線温度は75℃,耐熱クラスF種では155℃まで耐えられるため,基準巻線温度は115℃というように,耐熱クラスで定められた温度よりも低い温度が基準巻線温度として定められています。
なお,試験では,基準巻線温度まで巻線を温めるというようなことは行わず,抵抗を測定したときの温度における抵抗値を,基準巻線温度とした場合に換算して求めます。
したがって,この記載は正しいです。
(2)
一次巻線の抵抗測定方法は,問題文に記載のとおりの方法で行います。
(3)
無負荷試験は,電動機に負荷を接続せずに,電動機を単体で動作させ,その状態での一次側の電圧,電流,電力を測定する試験です。
誘導電動機のL形等価回路は以下の図のようになります。
無負荷で運転する場合,回転子の回転速度Nは同期速度N_sとほぼ同じ速度となり,その結果滑りsは以下のとおりほぼ0となります。
s = \dfrac{N_s - N}{N_s} \fallingdotseq \dfrac{0}{N_s} = 0
等価回路において,機械的出力を表す抵抗 \dfrac{1-s}{s}r'_2にsが含まれていますが,無負荷時においては,すべりsがほぼ0であるため,この値は非常に大きな値となります。その結果,電源からの電流はほとんどが励磁回路に流れることとなります。(電動機は負荷が軽いときは負荷電流が小さくなるという事実から,無負荷時にはほとんど負荷電流が流れず,電流の多くは励磁電流になると理解することもできます。)
したがって,無負荷試験時は励磁回路のみに電圧をかけていることとほぼ等しいため,無負荷試験を行うことで,誘導電動機の励磁を作るために必要な電流(励磁電流)や,励磁における損失(鉄損)を測定することが可能です。
(4)
問題文に記載のとおり,拘束試験は電動機の回転子が回転しないように固定して行う試験です。拘束試験においては,回転子の回転速度Nが0であり,その結果滑りsは以下のとおりほぼ1となります。
s = \dfrac{N_s - N}{N_s} \fallingdotseq \dfrac{N_s}{N_s} = 1
以下は先ほどと同じ等価回路です。
拘束試験時はすべりがほぼ1であるため,機械的出力を表す抵抗 \dfrac{1-s}{s}r'_2の値がほぼ0となり,その結果電源からの電流のほとんどが固定子回路(一次巻線)と回転子回路(二次巻線)に流れることになります(電動機は負荷が重いときは負荷電流が大きくなるという事実から,拘束試験は電動機が回転出来ないほどの大きな負荷であるので,負荷電流が大きくなり,電流のほとんどが負荷電流となると理解することもできます。)
このため,回転子を拘束した状態で一次巻線に定格電圧を加えると,回路には定格電流を越える大きな電流が流れるため,拘束試験時においては,電流の大きさが定格電流となるように,一次巻線側の電圧を調整しながら印加を行います。
問題文の記載は,「定格一次電圧を印加して」とあるため,誤った記載です。正しくは,「電動機の一次巻線に入力電流がほぼ定格値になるような定格周波数の低電圧を印加して」となります。
(5)
無負荷試験では,(3)で解説したとおり,電流の多くが励磁回路に流れるため,励磁回路のサセプタンス(リアクタンスの逆数)は,無負荷試験で求めることができます。
拘束試験では,(4)で解説したとおり,電流の多くが一次回路と二次回路の合成リアクタンスと合成抵抗に流れます。このため,合成リアクタンスは拘束試験のみで求めることが可能です。
合成抵抗のうち一次回路の抵抗は(1)に記載のとおり,一次回路に直流を印可することで求めることができるため,二次回路の抵抗はその結果と拘束試験で求めることができます。
したがって,この記載は正しいです。
解答
(4)