解答の鍵 理論

直流回路における過渡現象

コンデンサやコイルを含んだ直流回路では,その回路に流れる電流や生じる電圧の値は,回路のスイッチを入れてから時間的に変化した後に一定の値になります。このような一定の値に落ち着くまでの現象を過渡現象といいます。

 

過渡現象が起きる理由

コンデンサやコイルを含んだ直流回路で過渡現象が起きる理由は,コンデンサの場合はコンデンサに電荷が充電されるまでに時間が掛かるため,コイルの場合はコイルに電流が流れようとすると,電流の変化に応じてコイルの両端に電圧が生じ,電流の流れが妨げられるためです。
コンデンサの場合,電荷の充電がほぼ完了すると回路に流れる電流や生じる電圧の値はほぼ一定の値に落ち着きます。コイルの場合は,回路に流れる電流の変化量が時間と共に小さくなると,コイルの両端に生じる電圧も時間と共に小さくなり,回路の電流や電圧の値がほぼ一定の値に落ち着きます。このような状態を定常状態といいます。

 

コンデンサと抵抗が直列に接続された回路の過渡現象

まず始めに,以下のようなコンデンサと抵抗が直列に接続された回路の過渡現象について見ていきます。

電源の電圧:E[V]
抵抗:R[Ω]
コンデンサの静電容量:C[F]
回路に流れる電流:i(t)[A]
抵抗の両端に生じる電圧:v_R(t)[V]
コンデンサの両端に生じる電圧:v_C(t)[V]
コンデンサに蓄えられる電荷:q(t)[C]

最初の状態では,コンデンサの電荷は無いものとします。
E=10[V],R=2[Ω],C=0.5[F]としたとき,この回路のスイッチを入れると、以下の図の様な過渡現象が生じます。

上図のとおり,回路に流れる電流,抵抗,コンデンサに生じる電圧は時間に応じて変化していますが,そのような状態においても,以下の関係が常に成り立っています。

E = v_R(t) + v_C(t)
v_R(t) = i(t)・R
v_C(t) = \dfrac{q(t)}{C}

電圧,電流は時間に応じて変化しているため,時間の関数になっています。

次に時間経過毎に,回路がどういう状態になっているかを考えてみたいと思います。

 

step
1
スイッチを入れた直後

グラフでは時間が0秒近くあたりになりますが,そのときはコンデンサにはまだ電荷が無いため,コンデンサの両端に生じる電圧は,0[V]であり,回路にはこれからコンデンサに電荷を蓄えていくための電流が流れます。その電流の大きさは,回路に抵抗があるため,最大でもその抵抗で制限された値となります。
E=10[V],R=2[Ω]の場合では,

i(t_0) = \dfrac{E}{R} = \dfrac{10}{2} = 5 [A]

となり,グラフでも時間が0秒近くでは5[A]となります。

抵抗の両端に生じる電圧は,2[Ω]の抵抗に5[A]の電流が流れるため,10[V]となります。なお,抵抗の両隊に生じる電圧の大きさは,コンデンサの両端に生じる電圧が0[V]であるため,

E = v_R(t) + v_C(t)

から以下のとおり求めることもできます。

10 = v_R(t) + 0
v_R(t) = 10 [V]

 

step
2
過渡現象中

過渡現象中がどのあたりかを厳密には言えませんが,上記のグラフでは0秒から6秒位までの間で電圧,電流が変化しているため,このあたりの状態を考えます。

過渡現象中,コンデンサには電荷が曲線状に増えていっており,それに応じてコンデンサの両端に生じる電圧も大きくなります。回路に流れる電流はコンデンサに電荷が貯まるに応じて小さくなり,このため抵抗に生じる電圧の大きさも小さくなっていきます。過渡現象中も常に,

E = v_R(t) + v_C(t)

の関係は保たれています。

過渡現象中は,電流,電圧が曲線状に変化していますが,その理由は電荷と電流との間には

i(t) = \dfrac{\Delta q}{\Delta t}

という関係があるためです。この式は,「ある時刻からごくわずかな時間 \Delta t だけ進む間に,電荷量が \Delta q だけ変化したとき,その時間あたりの電荷の変化量 \dfrac{\Delta q}{\Delta t} が電流に等しい」,ということを表しています。

仮に電荷量の変化する割合がこの後も変わらない,すなわち電荷量の変化が直線状に変化するとすると, i(t) = \dfrac{\Delta q}{\Delta t} の式から,電流もスイッチを入れた直後の5[A]のままで変わらないことになります。この場合であっても, E = v_R(t) + v_C(t) の関係は保たれている必要があり,電流が5[A]のまま変わらないと抵抗の両端の電圧も v_R(t) = 10 [V]と変わらないことになります。すると, v_c(t) = 0 [V]となり,電荷量は0であり続ける必要があります。

この矛盾を解消する為には,抵抗での電圧降下が時間と共に小さくなる,すなわち電流の大きさが小さくなる必要があります。電流の大きさが時間とともに小さくなるというのは,電荷量の増え方が時間と共に小さくなるということに等しいため,結果的に,電荷量もグラフのとおり曲線状に変化するということになります。抵抗の両端に生じる電圧,コンデンサの両端に生じる電圧についても,同様に曲線状となります。

 

step
3
過渡現象後

過渡現象がどこで終了したかについても厳密に言うことはできませんが,上記のグラフでは6秒以降のあたりの状態を考えます。

コンデンサの容量ほぼ一杯まで電荷が蓄えられると,コンデンサにはほとんど電流が流れることはできないため,回路に流れる電流もほぼ0となります。そのときのコンデンサの両端の電圧は,回路に流れる電流がほぼ0で,抵抗の両端に生じる電圧もほぼ0となることから,電源電圧とほぼ同じEとなります。

 

時定数

今回の例では,過渡現象が継続している時間は6秒位までと考えましたが,過渡現象が継続する程度を示す値として,時定数と呼ばれるものがあります。その値は,回路に含まれる抵抗の大きさ,コンデンサの容量によって変化します。

コンデンサを含んだ直流回路で過渡現象が起きる理由は,コンデンサに電荷が充電されるまでに時間が掛かるためと説明しました。コンデンサに電荷を充電するまでの時間は,コンデンサの容量が大きくなれば,当然その時間は長くなります。また,充電のための電流の大きさが小さい,すなわち回路の抵抗の大きさが大きくなると,同様に充電に掛かる時間は長くなります。

したがって,コンデンサと抵抗が直列に接続された回路では,コンデンサの容量,抵抗の大きさともに大きくなると,その回路の過渡現象の継続時間は長くなるため,時定数を\tau とすると,\tau はコンデンサの容量と抵抗の大きさに比例します。

\tau = CR [s]

時定数の単位は秒です。過渡現象が生じる電流,電圧が,その値の最初の大きさから約63.2%変化するのに必要な時間が時定数です。この理由は回路の関係式から,電流,電圧を計算で求めることで明らかになります。

 

コイルと抵抗が直列に接続された回路の過渡現象

次に以下のようなコイルと抵抗が直列に接続された回路の過渡現象について見ていきます。

電源の電圧 E[V]
抵抗値 R[Ω]
コイルのインダクタンス L[H]
回路に流れる電流 i(t)[A]
抵抗の両端に生じる電圧 v_R(t)[V]
コイルの両端に生じる電圧 v_L(t)[V]

E=10[V],R=2[Ω],L=1[H]としたとき,この回路のスイッチを入れると、以下の図の様な過渡現象が生じます。

コンデンサの回路と同様に,回路に流れる電流,抵抗,コイルに生じる電圧は時間に応じて変化していますが,そのような状態においても,以下の関係が常に成り立っています。

E = v_R(t) + v_L(t)
v_R(t) = i(t)・R
v_L(t) =L \dfrac{\Delta i}{\Delta t}

コイルが含まれた回路で過渡現象が生じる理由として,「コイルはコイルに電流が流れようとすると,電流の変化に応じてコイルの両端に電圧が生じ,電流の流れが妨げられるため」と説明しましたが, v_L(t)の式がこれを表しています。

この式は,ある時刻からごくわずかな時間 \Delta t だけ進む間に,電流が \Delta i だけ変化したとき,その時間あたりの電流の変化量 \dfrac{\Delta i}{\Delta t} の大きさに比例(比例係数はコイルのインダクタンスL)した電圧が生じる,ということを表しています。

これらを念頭に時間経過毎に,回路がどういう状態になっているかを考えて見ます。

 

step
1
スイッチを入れた直後

回路が抵抗のみで構成されているや先ほどのようにコンデンサが接続されている場合,スイッチを入れた瞬間に,回路には抵抗値で決まる電流が瞬時に流れます。この瞬間における電流の変化率 \dfrac{\Delta i}{\Delta t} は,限りなく大きな値になります。

回路にコイルが接続されている場合は,このような瞬時に変化する電流が流れようとすると, v_L(t) =L \dfrac{\Delta i}{\Delta t} で決まる電圧がコイルの両端に生じます。 \dfrac{\Delta i}{\Delta t} が限りなく大きな値となるため,単純に考えると v_L(t) =L \dfrac{\Delta i}{\Delta t} で求まる電圧の大きさも限りなく大きくなりますが, E = v_R(t) + v_L(t) の関係は常に成り立つ必要があるため, v_L(t) の大きさは電源の電圧の大きさよりも大きくなることはありません。

したがってスイッチを入れた瞬間には,コイルの両端に生じる電圧は電源電圧に等しい電圧となっています。回路に流れる電流は,電源電圧とコイルの両端に生じる電圧が等しいため,すぐに電流が流れることはできず,0になっています。抵抗の両端に生じる電圧は,スイッチを入れた瞬間は回路には電流が流れていないので,電流と同様に0です。

 

step
2
過渡現象中

今回の例では,上記のグラフで0秒から3秒位までの間のあたりの状態を考えます。

過渡現象中,回路に流れる電流は曲線状に増えているため,電流の変化率が時間時応じて小さくなっています。これに応じてコイルの両端に生じる電圧も時間に応じて小さくなっていきます。抵抗に生じる電圧は,電流が増えるにつれて電流と同様に曲線状に大きくなっていきます。過渡現象中も常に,

E = v_R(t) + v_L(t)

の関係は保たれています。

過渡現象中は,電流,電圧が曲線状に変化していますが,その理由はコイルの両端に生じる電圧が

v_L(t) =L \dfrac{\Delta i}{\Delta t}

で表されるためです。この式は,先ほども説明したとおり,コイルの両端に生じる電圧は,その時間あたりの電流の変化量 \dfrac{\Delta i}{\Delta t} の大きさに比例(比例係数はコイルのインダクタンスL)する,ということを表しています。

仮に電流の変化する割合がこの後も変わらない,すなわち電流の変化が直線状に変化するとすると,電流はスイッチを入れた直後の0[A]のままで変わらないことになります。実際は電流が0[A]のまま変わらないということはなく,回路には電流が流れ,常に E = v_R(t) + v_L(t) の関係も保つ必要がありますが,回路に流れる電流が曲線状に変化すれば,この電圧に関する関係式を矛盾なく満たすことが可能となります。

電流の大きさが時間と共に曲線状に変化するため,結果的に抵抗の両端に生じる電圧も曲線状となります。コイルの両端に生じる電圧についても,同様に曲線状となります。

 

step
3
過渡現象後

回路に流れる電流が回路の抵抗値で定まる値にほぼ達すると,それ以上電流の変化は生じなくなります。電流の変化がなければそれを妨げようとするコイルの両端に生じる電圧も発生しなくなるため,コイルの両端の電圧はほぼ0となります。
したがって抵抗の両端の電圧は電源電圧とほぼ等しくなります。

 

時定数

コイルと抵抗が直列に接続された回路の時定数は,回路に含まれる抵抗の大きさ,コイルのインダクタンスの大きさによって変化します。

コイルを含んだ直流回路で過渡現象が起きる理由は,コイルに電流が流れようとすると,電流の変化に応じてコイルの両端に電圧が生じ,電流の流れが妨げられるためと説明しました。コイルの両隊に生じる電圧は,電流の変化率にインダクタンスをかけたものであるため,インダクタンスの大きさが大きいほど,コイルの両端に生じる電圧も大きくなります。コイルの両端に生じる電圧が大きくなると,回路に流れる電流の増え方も時間が掛かるようになります。また,回路に接続された抵抗の大きさが大きいと,回路に流れる最終的な電流の大きさが小さいため,スイッチを入れた直後の電流の変化幅も小さくなり,コイルの両端に生じる電圧も小さくなります。その結果,回路に流れる電流が流れやすくなり,過渡現象が継続する時間は短くなると考えられます。(抵抗が大きい場合に過渡現象の継続時間が短くなる理由は別の要因によるものかも知れませんので,覚え方のイメージとして捉えて頂ければと思います。)

したがって,コイルと抵抗が直列に接続された回路では,コイルのインダクタンスが大きくなると,その回路の過渡現象の継続時間は長くなり,抵抗の大きさが大きくなると,その回路の過渡現象の継続時間は短くなるため,時定数を\tau とすると,\tau はコイルのインダクタンスに比例し,抵抗の大きさに反比例します。

\tau = \dfrac{L}{R} [s]

 

過渡現象のまとめ

まとめ

コンデンサと抵抗が直列に接続された回路の過渡現象
・スイッチ投入直後は,回路に流れる電流は回路の抵抗値で定まる電流値と等しく,コンデンサの両端の電圧は0
・過渡現象中は,回路に流れる電流が徐々に減り続け,コンデンサの両端の電圧は徐々に増える
・過渡現象後は,回路に流れる電流はほぼ0となり,コンデンサの両端に生じる電圧は電源の電圧とほぼ等しくなる
・時定数はコンデンサの容量と抵抗の大きさに比例し,\tau = RC となる

コイルと抵抗が直列に接続された回路の過渡現象
・スイッチ投入直後は,回路に流れる電流は0で,コイルの両端の電圧は電源電圧と等しい
・過渡現象中は,回路に流れる電流が徐々に増え続け,コイルの両端の電圧は徐々に減少する
・過渡現象後は,回路に流れる電流は抵抗で定まる電流値とほぼ等しくなり,コイルの両端に生じる電圧はほぼ0になる
・時定数はコイルのインダクタンスに比例,抵抗の大きさに反比例し,\tau = \dfrac{L}{R}となる

なお「ほぼ」という言葉を使っていますが,その理由はどんなに時間が経過しても電流や電圧の変化は極わずかに発生しているためです。その大きさは,時間が経つほど,小数点以下の桁数がどんどんと増え,その量が極わずかであるため,「ほぼ」という表現を使っています。

 

このテーマに関して過去に出題された問題

3種 R2 理論 問10『直流回路の過渡現象に関する問題』

-解答の鍵, 理論